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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十章 人ならざるもの
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不可解な現象

 水に漂う木の葉のような時間を疑問に思うことなく、我は水底で過ごす。

 ひとたび寝返りを打つだけでも周囲に影響を与えかねない巨体では、そうすることが正しいとすら思えるが、我はただ、ゆっくりとした時間を過ごしたいだけなのかもしれない。


 こうして水底にいるだけでも、心が自然と穏やかになる。

 これは我の血脈であれば誰もが感じることではあるが、なぜこのような巨体にまで成長するのかは、誰も知らぬどころか考えもしないことらしい。


 まったくもって邪魔な大きさだと、本心から思う。

 せめてヒトの子の3倍程度であれば様々なことができたが、これだけ大きいと動くことすら周囲に多大な影響を及ぼす。



 ここ最近、頻繁に考えることがある。

 なぜこんな存在に生まれてしまったのかと。


 他の龍種は考えもしないことだ。

 自分のあり方すら悩んでしまう我が異質なのだろうか。

 そんなどうでもいいことを考えながら、水の底で平穏に過ごす。


 少し前には嵐のような激しい風雨が続いた。

 そんな時は決まって湖面に出ては静かに泳ぐのを我は好む。

 しかしそれも緩やかになると同時に、湖底へ戻らなければならない。


 この体躯は、ヒトの子には刺激が強すぎる。

 残念ではあるが、それも致し方のないことだ。

 我の姿を見られただけで、いらぬ恐怖心を与えてしまう。


 忌々しくも思える体が自らの意思と反して動きそうになったのを押さえ込み、心を落ち着かせた。

 ここで尾でも動かそうものなら大惨事になりかねない。


 ……ふと、湖面にわずかな揺らぎを感じた。

 ここからでは良く見えないが、小さな船のようだ。


 魚獲りか。

 精の出ることだ。



 思えば我は、何も食べたことがない。

 綺麗な水があれば生きられる種族からすると、何かを糧にしなければ生きられないことにある種の憧れを抱く。

 命を奪い、喰らわねば生きられないことを野蛮だと言っていた変わり者もいたが、それこそが生きることだと我には思えてならない。


 本来、生物とはそうあるべきなのではないだろうか。

 龍種である我がこんな発想をすること自体、変わってると言えるが。



 そろそろ地上は夜となる頃合か。

 しかし今日は良く晴れているようだ。

 残念だが、泳ぐことは当面避けた方がいいだろうな。


 我は視線を真上に向ける。

 この行為自体に深い意味はなかった。

 いつもならばすぐに視線を戻し、瞳を閉じるだけだ。

 だが、今日に限って言えば、そうはならなかった。


 小船?

 先ほどのか?

 ……まさかとは思うが、先日の長雨から湖を迷い続けているのか?


 いや、さすがにそれはないだろうな。

 となれば、未だに魚を獲っているのか?


 この場所は湖畔からも随分と離れてるはずだ。

 何か問題があって、湖を漂っている可能性もあるが……。


 気がつくと、我はゆっくりと湖面へ向かって浮上している最中だった。


 時折こういった不可解な現象が我に起こることがある。

 自身の意思とは関係なく、体が勝手に動いていることが。


 人に見られただけで恐怖心を煽る姿をしているというのに、難儀な話だ。


 まぁ、これも我の"気まぐれ"のひとつなのだろう。

 考えなしに行動することは良くないが、様子を伺うだけだ。

 遠目に見て、異常がないなら戻ればいい。

 ただそれだけだ。


 この時の我は、そう思っていた。

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