表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十章 人ならざるもの
344/700

水を腐すもの

 今からおよそ1200年以上も前のことになる。

 世界最大の湖と呼ばれているフェルザーは現在とは違い、毒沼のように汚染された生物の生きられない穢れた場所だったとレヴィアは語る。


 その元凶となるのが腐龍。

 生きとし生けるものの命を奪い、水を腐すもの。

 周囲を猛毒の臭気で満たし、ただただ命の灯を消し続ける。

 水質を美しく保つことでその場所を住処にする水龍の天敵とも思える存在だ。


 しかし腐龍を討伐することは、彼女達の中でも禁忌とされている。

 その理由は、"たとえ姿形は違えど同じ龍種だから"、などでは決してない。

 腐龍を相手に戦いを挑めば、"邪龍"が参戦する可能性が高くなるためだ。


 邪龍は腐龍と違い、理に適う行動を取らない場合が非常に多い。

 一方的に敵対する身勝手さを持ち合わせながら気まぐれで世界を滅ぼそうとするような、龍種である彼女たちからしても一言で言えば"わけのわからない存在"だ。


 特に邪龍は龍種の中でもかなり異質で、生まれながらに身体能力が非常に高く、成長速度やその限界も並の龍どころではないほどの強者となりうる厄介さを持つ。

 話し合いにも応じず命令には従わず、おまけに気分次第で世界を焦土に変えることを楽しむような存在を同種族とすら定義していない龍種も多いらしい。


 そんな存在がひとたび暴れ出せば、それを良しとしない龍種は邪龍を(たお)さんがために多数で動かざるを得ないような状況となるケースがほどんどらしい。

 そしてそれは撃退できるかどうかの話ではなく、龍種が同時に暴れることで世界そのものが崩壊しかねない結果を導き出してしまうからだと彼女は話した。


 水を腐らせ、大きめの湖や沼を縄張りにするだけの腐龍の方がまだ許容できると他の龍種に言われる中、彼女たち水龍の血族のみは違った見方をしているそうだ。

 元々綺麗な水質を好んで住処にする彼女たち水龍からすれば水を腐す行為など、まったくもって容認などできるはずもないと、彼女は苛立ちを込めながら話した。


 問題は腐龍が、自らの意思に反して周囲を腐すわけではない(・・・・・・)ことだ。

 その気になれば水を穢さずとも生きられるのに、それをしないらしい。

 一方的に襲いかかってくるわけではないが、それでも話し合いには応じない。

 それどころか、子供じみた理由で聞く耳を持つことはないという。


 だからこそ無意味に思える行動を取る腐龍を、彼女は敵として排除した。

 特にフェルザーは世界最大の湖で、その規模からどれだけ多くの命が消されていたのかを考えれば、平和主義者と揶揄される彼女たちだろうと戦いを挑まない理由を探す方が難しい。


 潜在能力的に水龍よりも強者の腐龍はまだ幼かったこともあり、力量がわずかに優れていたからこそ追い払えたと、レヴィアはその時の心境を交えて言葉にした。



 ……しかし、話を聞く限りでは、かなりぎりぎりの勝利だったと俺には思えた。

 レヴィアが負ければ当然のように喰われ、周囲を穢すことも続けただろう。

 逆に勝ったからといって、力を蓄えた腐龍が報復にくる可能性も考えられたが、それよりも彼女は腐り果てた湖を浄化することに全神経を集中し続けたそうだ。


(われ)が湖を住処にできるほどの水質に戻せたのは、それから200年後のことだ。

 その頃にはあの汚らわしい幼子のことは忘れていたが、今になって思い出した。

 ……だが、まさか村に返したコルネリアが変わり果てた姿で湖を彷徨うことになるとは、当時の我には想像だにしなかった」


 とても悲しそうに空を見上げながら言葉にするレヴィア。

 それはまるで、コルネリアに謝罪しているようにも俺には見えた。



 レヴィアが悪いわけではない。

 その後に彼女が取った行動も含め、誰にも咎めさせたりはしない。

 彼女は本当に気まぐれだったと言葉にしたが、彼女の性格上それはありえない。

 体が意思よりも先に動いてしまったとしか思えない行動を取っている。


 結果として最悪の結末を導き出してしまっているが、それもすべて眼前にいる連中の浅はかとしか思えない行動のせいだし、それ以外の何ものでもない。


 そのことに彼女もようやく気づいたんだろう。

 続く言葉に、どうしようもないほどの悲しみを込めて発言した。


「……ここはまるで、かつての湖にいるような錯覚を呼び覚ます。

 だからこそ思い出せたのかもしれないが、それでもコルネリアの命を奪うことなどあってはならない。

 その両親ですら手にかけた存在には、我の言葉など、届かぬのだろうが……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ