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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十章 人ならざるもの
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温かい言葉

 眼前に映る建造物の入口を見ながら、俺たちは言葉を発せずにいた。

 外見から判断すれば特質的な佇まいをしているわけではないとも思えたが、水底にあるお蔭でそれほど痛んでいない綺麗な保存状態で残る建物に圧倒されていたのかもしれない。


 冷静に周囲を確認したが、やはり魔物は水龍の存在が追いやっているんだろう。

 そう思わせるような静けさに、この場での戦闘は避けられそうだと判断するも、ここから先は本当の意味で未知の領域となる。


 どう見ても彼の大きさでは頭すら入らない入口の先に何が待ち構えるのか、それとも何も手にできない建造物だけなのかは進んでみなければ分からないだろうな。

 もしかしたら本当に、とんでもない怪物が眠っている可能性も捨てきれない。


 そんな緊張感が伝わったんだろうか。

 心配を含む強張った声色で水龍は言葉にした。


≪我はここまでだ。

 さすがにこれ以上進むことはできない≫


「十分だ。

 ……本当は、この子たちもここで待機してほしいんだが……」


 そうしてくれと言わんばかりの意思を込めて視線を向けるが、輝かせながら遺跡の奥に思いを馳せるように見つめている好奇の目が目に映り、俺はため息をつく。


 子供たちはもちろん、リージェでさえも興味津々といった様子だ。

 思えば彼女からすれば"とても小さな世界"で完結していただろうから、目に映るすべてが色付いて見えているのも当然か。


 そんな彼女に水をさすことはできないし、したくもないから自由にさせてあげたいと思う一方で、非常に強い魔物がいないとも限らないと思える俺としては、襲い掛かってくる可能性をしっかりと考慮した上での心構えを持って進むべきだろうなと冷静に考えた。


 フェンリルやドラゴンがいる世界なんだ。

 クラーケンや巨大タコなんてのが淡水湖にいたとしても不思議じゃない。

 むしろいない理由の方が、異世界人の俺には思えないくらいだ。


 通常の攻撃が効かない敵が出てくる可能性は想定済みだが、"歪な闇(テネブル)"のようなわけの分からない存在とこんな場所で対峙するのだけはやめてほしい。

 せめて陸ならば、なんて思うような状況は体験したくないからな。


 俺がこの子たちをしっかり護ればいいだけではあるんだが、水中での戦闘となれば身体能力に多少なりとも制限がつくだろうし、この中でもリージェは強い攻撃魔法が必要とあらばためらわずに使うことができるから、どうしても頼ってしまいそうになる。


 ……いざとなれば、奥義をためらわずに使うべきだな。

 あれは水の抵抗を受けながらでも使えるから、軽く纏わりつく程度にまで抑えてくれている水龍の加護が効果を受けている状態なら攻撃範囲が短めの奥義を使えるかもしれない。


 最悪の場合、遺跡ごと真っ二つにしかねない。

 崩壊させてしまうかもしれないからなるべく奥義は使いたくないが、そうも言えない状況となった時に手加減を覚えておかないといけないし、これもいい経験になるだろうな。


「それじゃあ行ってくる。

 あまり期待しないで待っててくれ」


≪うむ。

 何がいるか分からん場所だ。

 気をつけてな≫


「あぁ、ありがとう」


 子供たちを連れて俺は古代の遺跡に足を踏み入れる。

 湖底を歩くことにも違和感がなくなっている今なら冷静に対処ができるはずだ。


 前方に集中しすぎている俺たちには水龍の放った言葉を正確に聞き取れなかったが、どこか嬉しそうな声色のように感じられた気がした。



≪……ありがとう、か。

 やはり温かい言葉だな≫

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