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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十章 人ならざるもの
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選べない選択

 それに問題はそこじゃない。

 もし世界を旅していた時の経験が特殊成長スキルによる肉体的な進化を促しているんだとすれば、実際に水龍を連れ歩かなければ人の姿を取れないとも思える。


 そんなことは絶対にしない方がいい。

 たとえ人里を離れて移動したとしても、見つからないわけもない。

 最悪の場合、そう遠くないうちに冒険者や憲兵が討伐しにくるだろう。


 子供の龍なら小さいだろうが、彼はもう立派な大人で、全長すらまるで見当もつかないほど巨大な体躯をしているんだから、連れ歩くなんてもってのほかだ。


 この方法は選べない。

 念のために俺は聞いてみた。


「……体を小さくは……できないよな……」


≪さすがに無理だな。

 我はそういった能力を持たぬ。

 そもそもそれができるのなら、コルネリアを連れて住処を移していた。

 他の龍種とは違う特殊なものといえば、水質を綺麗にするくらいだろう≫


 それはそれですごい能力だと思うが。


 それに"特殊成長"スキルは、俺が空人であることとは無関係だと思っている。

 入手したのは俺が不用意に力を込めて魔物の卵を孵化させたことが大きいはず。


 つまり異世界の技術、それも非常に特質的な力に分類されるものを込めなければ同じスキルは手に入れられないかもしれない、ということになるだろう。


 あくまでも独自の推察に過ぎない。

 しかし、とても限定された能力であることはまず間違いないだろう。

 だからこそ言葉通りの意味で"唯一無二の技能(ユニークスキル)"なんだと俺には思える。


 この考えは間違っていないはずだ。

 そう思えるほどの強力なものばかりだし、多くの者が持っていれば世界はもっと混沌とした恐ろしいことになっているだろう。



 特殊成長の影響は与えられない。

 となると、現状では残りふたつだな。


「他には"秘術"の類だろうか。

 人に限らず、龍種に伝わる秘伝や口伝といったものがあれば、話は変わる。

 それを実行できるかはまた別の話になるが、それでも希望は見えてくるはずだ」


≪……どうだろうな。

 我がこの場所で過ごし始めてからは、他の龍種との交流もない。

 幼子の記憶を頼りに思い起こしてみても、そんな話は聞いたことがない。

 あるのはせいぜい、魔物と人が互いに協力関係を築いた話くらいだろうか≫


「……そうか」


 だとすれば、俺にできるのはあとひとつだけになる。


 迷宮都市にあるアーティファクト。

 未だそのすべてが発見されていないとも言われ、現在でも冒険者が絶えずにダンジョンを探し歩き続ける、伝説級の秘宝(レジェンダリー)とすら定義されない武具や道具。

 この世界を見守る女神ステファニアが創ったと伝えられるアイテムだ。


 本来アーティファクトとは人工物や工芸品を意味する言葉のはずだが、この世界ではそれらを神からの恩恵と思われているようで、そのどれもが人智を超えた凄まじい効果を持つと聞く。


 これならばもしかしたらという期待感を持てるが、生涯をかけても見つかるとは限らない大きなリスクとも隣り合わせとなるだろう。

 それを考慮するのならば俺がこの湖で水龍と過ごし、彼が人の姿になるまで待った方が確実だろうな。

 そうはできない理由が俺たちにある以上、それも選べない選択ではあるが。


≪……秘術かどうかは分からないが、我を崇めていたヒトの子たちが湖畔で何かをしていたな。

 三日三晩も良くやると、半ば呆れながら遠目に見ていたことを思い出した≫


 耳に届いた彼の言葉は、一筋の光明足りえる意味を持つと俺には思えた。

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