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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十章 人ならざるもの
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可能性に賭ける

 小船を漕ぎ進めて1時間ほどが過ぎた。

 問題と思われる存在は未だ気配察知にかからない。


 そもそもこれだけ巨大な湖を彷徨ったところでそう簡単に出遭えるとも思えない俺としては、ただ闇雲に小船を漕ぐことは避けるべきだったかと思い始めていた。

 方角を見失わないように出発した湖畔がしっかりと見える場所で探索を続けているが、このフェルザーの湖は世界最大と言われるほどの面積がある。


 そういった広い場所での捜索には人海戦術が必要になるんだろうか。

 そんな程度の作戦しか思いつかない俺の知識量で、問題のそれを見つけるのはかなり無謀なことなのかもしれない。


 やはりもう少し慎重に考えるべきだったか。

 相手が未知の魔物であることを考慮すれば確実な作戦をいくつか立て、あらゆる展開に対処ができるだけの冷静な判断力を持ってから行動するべきだろう。

 まるで"狙って下さい"と言わんばかりのボロ小船で戦闘ともなれば、本気で返り討ちにされかねない。


 人命がかかってるとはいえ、戦うための心構えを含めてしっかりと準備をするべきだったと、今更ながらに後悔をし始めていた。


 しかし、小船が置かれた湖畔からそう遠くない場所にいる可能性も考えられる。

 もしそうだとすれば、今にも襲い掛かってくることを考慮するべきだな。


 コルネリアの安否が危ぶまれる現在では、早急に見つけたいところだ。

 たとえ生存は絶望的だろうと、まだ分からないんだ。

 奇跡的にでも森に逃げて、なんてことはさすがにないだろうが、小船に乗ってなかったかもしれないし、すぐに湖畔へ戻ってきたかもしれない。

 俺自身がそう思いたいだけだとしても、この目で確認していない以上、俺はその可能性に賭ける。



 船に乗る前にした話し合いで様々なことを決めた俺たちだが、水底から一方的に強襲される可能性も捨てきれない以上、俺は舟を漕がずに戦闘に専念することになった。


 これはブランシェからの提案ではあるが、話をした時は真面目だった彼女は現在、とても楽しそうにパドルを使っていた。


 これは遊びじゃないぞと言いかけて、俺は口を噤む。

 こういった機会でもなければ体験できないことだからな。

 それに随分とストレスが溜まっているだろうし、こうして楽しそうな4人の姿は見ていて俺も気が楽になる。


 これだけばしゃばしゃと水面を叩けば、音でおびき寄せることもあるだろう。

 水中に魔物がいなければ重畳だが、幸いそういった気配も今のところ感じない。


 ここでふたつ可能性が見えてきた。

 そもそもこの湖には魔物が少ない、もしくは問題の存在が追いやっているんじゃないだろうか。

 ご都合的な解釈をする馬鹿どもからすれば、"歓喜の震え"が起きたという。

 それは何ものかによる"凄まじい咆哮"だったと俺には思えた。


 つまるところ、この湖には何らかの存在が生息するのは間違いない。

 それが神と呼ばれるモノかは俺には判断がつかないし、つくことはないだろう。


 ただひとつはっきりと言えることがあるとすれば、コルネリアを手にかけた魔物であれば容赦する必要はない、ということだ。

 たとえ足場の悪い小船だろうが、最大威力で一刀両断してやる。

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