大人しくしといてやるよ
視界が開けるように森を抜けた俺たちは、とても壁とは思えない粗末な丸太で組まれた原始的な柵を見ながら入り口を目指す。
この周辺に強い魔物は出ないと聞いているが、こんな場所だ。
村の安全を維持するだけでも相当難しいんだろうな。
本音を言えば避けて通りたいし、この村の安全とか知ったことではないんだが、一応は調査が必要か。
しかし、北に1日半ほど歩けばヘルツフェルトに出られると聞いている。
森は1日とかからず抜けられるらしいし、村を出ようと思えばできるはず。
それでもこの村から離れられない理由があるとも俺には思えない。
信仰心もなくして久しいと聞くが、極論と思える答えを出して実行に移してしまう村人に、何も思わないわけではない。
まさか今回のような凶行に走るとは、ギルドマスターはもちろん、2年前まで村の出身者だったハイドンであろうと信じられないと目を丸くすることしかできなかったくらいだ。
いったいこの村の住人たちは、何を思ってこの場所を離れないんだろうか。
その答えを俺が知ることは一生ないかもしれないな。
どの道、俺たちには関係がないし、どうでもいい話だ。
森の入り口と思われる粗末な門。
俺なら蹴り飛ばせるほど脆弱なものだった。
まぁ、魔物が人の領域に踏み入るような度胸はないと教えてもらったし、それほど危険ではないのかもしれないが。
街門守護者とも思えないような村人がひとり門の横に立っているが、その手に持つ原子的な槍が目に映る。
そんなものでは魔物と戦えないんじゃないかと、思わず鼻で笑いそうになった。
「……なんだお前ら、こんな場所に子連れで」
「フェルザーの湖を目指していたんだが、まだ先なのか?」
「あぁ、それならこの村の反対側にある門を抜ければ半日で着くよ」
「通ってもいいか?」
「それはかまわないが、子供を連れて何してんだ?」
「それは村長に話す。
二度も三度も説明するんじゃ面倒だ」
何か言いたげな男を扉ごとぶっ飛ばして強行しようとも思ったが、立場上こいつらの言い分を聞く必要がある。
確認したいこともあるし、今は大人しくしといてやるよ。
古びた木を擦るような音が響き、粗末な門が開かれた。
こういった時、子連れは疑問に思われても警戒されることはないんだな。
俺ひとりなら話は変わっていただろうし、強引に突破せず済んだか。
男に連れられて粗末な門を進む。
門番を放棄していいんだろうかとも思えるが、周囲に魔物はいない。
たとえ襲ってきても、俺が倒すかは微妙なところだが。
……村、と俺は聞いていたが、町のスラムを連想するような木製の建物だった。
風化した壁を板で強引に補強し、屋根もボロボロで雨漏りもすごそうだ。
今にも崩れそうな小屋に住み続けるとか気が知れない。
よくもまぁ、こんな場所で生活できるもんだ。
子供ができれば村を捨てる気持ちも正しく思える。
はっきり言って、衛生的にこの子たちを住まわせたくない。
そう断言できるほど、生活環境は最悪に思えてならなかった。
すぐに着くほど近い場所にある村の中心部に来ると、ぞろぞろと十数名の村人がやってきた。
まるで俺たちを囲んでいくようにも思える動きだ。
その様子にフラヴィは俺の裾を掴みかけた手を戻す。
「……なんじゃ、町からの客か?」
身長の低い高齢の男性が言葉にする。
同時にフラヴィは、青ざめながら俯いた。




