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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十章 人ならざるもの
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人命を最優先に

 クーネンフェルスを出て5日がすぎた。

 目的地の村はまだ視界に映らない。


 ギルドでいくつか確認して、すぐに出発した俺たちは森を進む。

 しかし今回は人命を最優先に移動しているため、訓練は言葉でだけだ。

 魔物を見つければ俺が早急に対処し、最短時間で村を目指している。


 多様な技を見せるだけでもそれなりの経験になるはずだが、実際にその技を体験させた方が遙かに身につくのは間違いないだろう。

 残念ながら今回は説明のみになるから、もやもやは溜まっていそうだが。

 それでも、前へ進みながら真剣に耳を傾けるみんなを誇らしく思えた。



 時には足場の悪い地面を進み、近くを通る魔物を倒しながら村を目指す。

 ハイドンから正確な位置を含む情報を可能な限り聞いた俺たちは、宿に泊まることなく目的地を目指しているが、本来であればこれはかなり危険な行動だ。


 ここ最近、まともなベッドで眠れていないことを不安に感じていたが、倦怠感に近い体の変調を思わせるものはこれまで出ていないみたいだな。


 こんな考えはよくないかもしれないが、フラヴィとブランシェは元々魔物だし、リージェに限って言えば並みの冒険者が持つ身体能力を大きく上回る。

 この頃はフラヴィも徐々に体力がついてきたし、適度に休めば長距離移動もしっかりできるようになっている。

 ここまでくると、体力的な不安を感じさせるのはエルルの方か。


 今もわりと呼吸を乱しながら森を歩くが、この子もまた年齢相応とは思えない体力と、何よりもずば抜けた発想力や魔法技術を持っている。

 いずれは本当に、魔法による身体能力強化も覚えてしまうかもしれない。

 そうなれば彼女が持つ欠点を一気に克服できる可能性すらあるだろう。


 そんなことを考えている時だった。


「前方やや左220メートルに、人の気配がある。

 どうやら、ようやく村に着いたみたいだな」

「……そっか、やっとついたんだ……。

 ……っていうかトーヤ、気配を察知できる距離がさらに増えてる……」

「まぁ、使い続けて移動しているし、みんなより成長は早いだろうな」

「……使い続けてるって、どうやったらこんなに大変な状態を維持できるの……」


 若干呆れ顔を向けるエルルだが、言いたいことも分からなくはない。


 みんなにはまだ伝えていないが、これには少しコツがある。

 常に全神経を張り巡らせるのではなく、ある程度は適度に力を抜けばいい。

 姿が見える状態は最小限の反応のみに抑え、何かを見つけたら集中して正確にそれを認識すればいいだけなんだが、この話についてはまだ伝えられないな。

 まぁ、言うほど単純に切り替えることも難しいとは思うが。


 これを覚えれば今よりもずっと索敵状態を維持できる時間が増えるが、まずはしっかりと知覚として認識できるようになってから学ばせないと中途半端な技術で成長が止まるだろう。

 一度その感覚が身についてしまうと修正するのにはかなりの時間がかかると父さんは言っていたし、俺自身もまずは目標の正確な認識を覚えた方がいいと思える。


 それに下手に楽を覚えさせるのも、時期としては良くない。

 反復練習は得てして退屈に思えるだろうけど、このまま続けた方が確実にみんなの力になるだろう。


 まぁ、今は教えずに、頃合を見計らうべきだな。

 それよりもまずは言うべきことがある。


「ここから先、具体的には俺がいいというまではお互いの名前を伏せて話をする。

 それからもうひとつ、不安な気持ちになっても服の裾を掴まないように。

 これは暗殺者が襲撃してきたことも想定してだが、その状態だと行動に制限がかかるから危ない状況に陥りやすいんだ。

 寝る時は今までどおり引っ付いてかまわないが、強引に移動したり、起こされるかもしれないってことを忘れずに憶えていてほしい」


 首を傾げていた子供たちだが、襲撃されることについては理解できたようだ。

 さすがに名前に関してはよく分からないと思ってるみたいだな。

 言葉の意味はそのうち分かるだろうし、今はそれで十分だが。


「……んー、よくわからないけど、わかった。

 トーヤの言うとおりにするね」

「ありがとう」


 優しくエルルの頭をなでると、羨ましそうにこちらを見ていたフラヴィとブランシェも同じようにしてあげた。

 喜ぶ3人を、いや俺を含めてリージェは、とても微笑ましそうに見つめていた。


 彼女にとっては俺も子供に見えるんだろうか。

 そんな優しい気配が、彼女から感じられた。

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