どうした
クーネンフェルス冒険者ギルド第1会議室。
ここでは主に依頼主から詳細を聞き、必要なことを話し合うための場所だ。
本来であれば身分証の確認も行われるが、さすがに小さな子供にはされない。
『トーヤ殿たちも同席をお願いしたい』
そう言葉にしたギルドマスターに頷いた俺は同行し、現在は子供の話を聞き終えたところだ。
その内容を精査する長と女性職員の様子を見守りながら深く思案していると、少年のおじが別職員に連れられてやってきた。
「コンラート!!」
「あ、おじさん」
「『あ』、じゃないだろう!?
急にいなくなったらダメじゃないか!」
「……ぅ……ごめんなさい……」
お茶受けを摘んでいた指を放し、申し訳なさそうに少年は答える。
20代後半の男性は深くため息をつき、表情を笑顔に戻して言葉を続けた。
「……本当に無事でよかった。
"迷子の時はギルドに"って教えたのを憶えていてくれたんだな」
「…………うん」
男性は胸を撫で下ろしながら呼吸を整え、こちらに向かって深く頭を下げた。
「大変ご迷惑をおかけしました。
私はこの子の叔父で、ハイドンと申します。
クーネンフェルス商業ギルドに所属する交易商人です。
この度は甥の保護をして下さり、ありがとうございました」
「それはかまわない。
だが少々頼みごとをされていてな。
その詳細について訊ねたい」
淡々と話すギルドマスターの言葉は、顔を上げたハイドンを凍りつかせた。
それが意味するものを察知したベッカーは、女性職員ふたりに指示を出した。
「エラ、リリー、彼から詳細を聞く。
少年を連れて第3会議室へ」
「「かしこまりました」」
そのやり取りを見て不安になった少年に、エラは優しく答えた。
「大丈夫よ。
叔父さんに少しお話を聞きたいだけだから、お姉さん達と一緒に違うお部屋でお茶とお菓子をいただきましょうね?」
まるで天使のように微笑む職員と少々眠そうな表情の女性に連れられて、少年は退室した。
足音が遠ざかるのを確認したギルドマスターは、話を切り出す。
「さて、少年の話に戻るか」
「……あの、コンラートが何か粗相をしましたか?」
「そうではない。
が、そう簡単に容認できるような内容でもなかったのでな。
まずはその話と、いくつか確認したいことがある」
これまでの経緯を簡潔に伝えるが、叔父の表情はなおも暗い。
わずかだった違和感がより強い確信に思えた頃、瞳を鋭くしたギルドマスターは声色を変え、威圧を込めて訊ねた。
「――あの子の姉をどうした?
いや、彼女は姪にあたるだろうか。
事と次第によっては捕縛して尋問することになるが?」
「…………」
男は答えない。
いや、答えられないのか?
何かを考えているようにも思えるが。
だが可能性はまだいくつか残っている。
結論付けるのはいささか早計だ。
「……姪は、その……"神隠し"に――」
「嘘だな」
青ざめ、無言の彼がその単語を言い放つと同時に、俺は感情的に答えた。
「悪いがあんたの言い訳や嘘を、"はいそうですか"と信じられるわけがない。
しかし、あの子の姉をどうこうしたんじゃないことも俺は理解してるつもりだ。
それについてやましいことがないのなら、ここでしっかりと話してほしい」
俺の言葉に悩み込む男性。
大きくため息をついたあと、彼はゆっくりと話し始めた。
「……私の姪コルネリアは……生贄として神に捧げられたと……聞きました……」
前時代的どころか、古代人のような風習を思わせるその内容に、俺はどう答えていいのか分からずに困惑することしかできなかった。




