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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十章 人ならざるもの
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まともに扱えるものを

 しかし俺の想像とは裏腹に、強い覚悟の瞳を伺わせる彼は断言した。


「かまわないと言えば語弊があるが、その覚悟なくして手など出せない相手だ。

 それにこれは、我々の問題(・・・・・)にトーヤ殿が正式に力を貸してもらう形となる。

 すべての責任は我々が負うし、必要なものは極力揃えることも口約する。

 トーヤ殿は今後どちらに向かうつもりか決めているのか?」

「俺たちは迷宮都市を目指しています。

 この状況では迷惑がかかりますから逢うことはできませんが、あの町には親しい友人もいますし、彼らへの近況報告もあります。

 何よりも強くなるために、俺たちはバウムガルテンへ向かいます」


 迷宮都市と呼ばれるバウムガルテンでは、様々なことができる。

 武器を金銭で調達するのも、ダンジョンに潜って鍛えるのも。


 どちらも今の俺たちにとっては必要なことだと思えた。


 その理由を正確に伝えなくともこの国の、いや、この世界の住人であれば予想できることなのかもしれない。

 納得した様子で頷きながら彼は答えた。


「……なるほど、アーティファクトも探すつもりなのか。

 時間は限られているが、その暇を稼ぐことも考慮させてもらう。

 小さな町のギルド長ではあるが、それくらいの発言力と影響力は持っている。

 しかしながらこの一件の詳細を含め、トーヤ殿の存在をバウムガルテンの冒険者ギルドマスターと首都にいるグランドマスターに話を通させていただき、今後の方針を検討したい。

 もちろん情報は名前と空人であることのみで、それ以外はトーヤ殿が不利益になりえることを伝えないと、この場で誓わせてもらう」

「それはかまいませんが、ギルドの書簡が奪われる可能性はないのですか?」

「無論、最大限の注意を払う。

 元々こういった手紙には、一般のものを装うことが多い。

 配達もこちらの息がかかった者を使うし、もし仮に1日でも到着が遅れたらその時点でおおよその見当はつくだろう。

 トーヤ殿の情報を入手すれば相当危険なことになりかねないが、それでも名前と存在のみで風体までは分からない。

 それを調べている間にこちらも動けるし、そう悪い状況にはならないはずだ。

 こちらも隠語を使い、各ギルドマスターにしか判断できないようにするから、トーヤ殿も念のため偽名を使うといい」


 二重三重どころか何重にも手を打つことで、正確な情報が伝わるまでの時間を稼ぐと彼は続けて話した。

 その間に俺たちは迷宮都市に向かい、本格的な修練と武具を揃える。

 特に子供たちの装備は武器のみで、デザイン以外は極々ありふれた衣服になっている以上、しっかりとした防具を揃える必要がある。


 ……いや、恐らく例のアーティファクトを探している余裕はないかもしれない。

 それだけ特殊な装備ともなれば、それなりの下層にあるはず。

 もしかしたら、隠し部屋のような場所に置かれているのかもしれないし、凄まじいボスが持っている可能性だって低くはないだろう。

 それを探す間に貴族が迷宮都市へ訪れる方がずっと早いだろうな。

 危険だが、今回は諦めるしかない。


 しかし最低でも俺の武器は必要だ。

 フランツからもらった剣も悪くはない。

 だが、これでは十全に戦えない。


 俺の持ち味は"速度"だ。

 空気抵抗を受けやすい西洋剣では扱いづらい。

 これなら封印された状態の"レリアの白銀剣"の方がマシだ。

 切れ味がなくとも折れることはないほど頑丈なはず。


 まぁ、それもいまさらだな。

 ライナーに渡した剣を借りるわけにもいかないし、何よりも切れ味が必要になる可能性もある。


 迷宮都市にある店を探せば、何かひとつは見つかるかもしれない。

 しかし、急ごしらえの武器なんかでは、まったく意味がない。

 まともに扱えるものを探さなければ持つ必要すらないんだ。


 良くて魔導具の剣、最良は刀だ。


 ……いや、これも可能性の話だが、武器がないわけじゃない。

 どういったものかその詳細は俺もよく分からないが、少なくとも良質どころじゃないほどの業物なのは間違いないだろう。


 最低でもレジェンダリー。

 最高ならアーティファクトの剣。

 ルートヴィヒ・ユーベルヴェークが持ち帰ることを諦めた財宝。


 それを手にするべきか、真剣に考える必要があるな。

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