護るためならば
色々と粗は目立つが、リージェが入ったことで安定感がより増している。
だが、彼女が扱う攻撃魔法は強すぎると言えるほど強力なものだった。
さすがにエルルのようなオリジナルの魔法を編み出すことはできないようだが、それでも土に系統する魔法を続々と体得する彼女に末恐ろしく思えたくらいだ。
しかし威力が高すぎるのは問題だ。
悪党に情けはいらないが、子供たちの前で凄惨な現場なんて見せられない。
彼女には手加減を覚えてもらうか、弱い魔法を使って援護に徹してもらうか。
リージェとしてはどれも気にしてないようで、俺はかなり衝撃を受けた。
優しい彼女が強烈な魔法を悪党に放つ姿をイメージできない俺だが、子供たちを護るためならばためらわないと断言した。
……大切な人を失う悲しみを、誰にも感じてもらいたくはありませんから。
笑顔で答えた彼女の言葉に、俺は自然と『そうだな』と返した。
俺の助言について考えていたブランシェの頭から煙が出始めた頃、この子に合った攻撃方法をひとつ教えた。
「さっきの連携は攻撃を直撃させることよりも、地面を叩きつけた威力で相手の戦意を喪失させることを目的とした方が効果的かもしれないな。
避けられた瞬間、極端に隙が大きくなる攻撃じゃなくて、もっと確実に当てる方法で戦うのがいいんじゃないかと俺は考えているんだ」
「もっと確実に攻撃を当てる方法?」
首をかしげるブランシェに、剣を外した鞘を持って実演する。
最初は普通に剣を振るうように地面を叩き、続けて強烈な攻撃をして見せた。
「今の違いが分かるか?」
「うん。
鋭さがかなり増えてた。
地面に当たった音もすごかったし、その分威力もすごいんだよね?」
「そうだ。
細かく説明すると、足の踏ん張りを使っただけでこれだけの違いが出てくる。
その差は軸足の親指なんだが、これはあとで教えるとして今は置いておく。
そして、遠心力と体のバネを使って全身で攻撃をすれば、こうなるんだ」
体を回転させ、軸足に力を込めて鋭く地面に鞘を振り下ろす。
直感的にブレーキをかけて、地に叩きつける瞬間で止めた。
「……危なかった。
勢いを止めなかったら鞘が砕けてたな……」
「えぇ!?
そんなにすごい威力になるの!?」
目を丸くするエルルに肯定すると、瞳を閉じた彼女は青ざめる。
その威力をしっかりとイメージできているみたいだが、それはフラヴィとブランシェも同じだったようだ。
フラヴィはさすがに俺ほどの腕力はまだないから、瞳を輝かせて尊敬の眼差しを向けているが、ブランシェはいつものような憧れを感じさせるものではなく、どうすればそれだけの威力が出せるのかを考えている表情をしていた。
そんな真剣に考え続ける彼女へ、俺は助言を続ける。
「ブランシェほどの腕力があれば飛び上がって攻撃するよりも、しっかりと地に足をつけて体のバネを使った方が威力は遙かに高くなる。
当然、体を回転させたことで隙も生じるが、確実に攻撃を入れられるタイミングが見極められるようになれば、勝利を掴める技として使えるはずだ」
「勝利を掴める技ッ!?」
「あぁ。
この技術を体得すれば、間違いなく格段に強くなる。
これが"武術"と呼ばれる技術のひとつで、独学じゃまず到達できない」
瞳を強く輝かせながら、俺の言葉に耳を傾けるブランシェだった。
この子は一撃の重さを優先する傾向が強い。
戦い方は人それぞれだし、どんな方法が合っているのかは自分で見つけるのがいちばんだが、質より重さ、いわゆる攻撃力に特化するのは邪道だと俺には思えた。
腕力に頼った戦い方では限界がある。
速度を重視した方が俺にはいいと思えた。
たとえ豪腕を持っていても、当たらなければ意味がない。
早ければ早いほど威力も増す速度を重視すれば、相手が見せるわずかな隙を縫うように当てられるし、真剣を持っていればその時点で勝敗が決するのは確実だ。
魔法で強化した敵と戦う場合は別だが、鈍重な攻撃は当てるのが難しい。
ブランシェは確実な勝利よりも爽快感を求めているのかもしれない。
剣ではなく槌を自ら選んだことからも容易に想像できていたことだが……。
この推察が正しければ危険な兆候だ。
今のところは目立つようにも見えていないし、もうしばらく様子を見てから判断した方がいいだろうな。
この子が持つ身体能力を十全に活かすなら、確かに攻撃力重視の超重武器も悪くないが、速度に重きを置いている俺からするとブランシェにはダガーのようなものが合っているんじゃないかとも思える。
風のように速く動き、相手が気づいた時には攻撃が終わっている。
そんな凄まじい使い手になれると思うんだが、戦い方を強引に矯正するようなやり方をすれば、成長を阻害するだろう。
これも教える側としては悩ましい問題になるが、フラヴィやエルルもいるし、ここ数日間でもリージェのサポートが上達しつつある。
ブランシェだけでは不安でも、3人が支え合えば獲物が槌だろうと十分に安定するはずだ。
……さて、どうしたものか。




