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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十章 人ならざるもの
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将来の話

 距離をあけ、向かい合う俺たちを3人は見守る。

 ブランシェの気配が強くなり、攻撃態勢に入ったことを感じ取った。


「いくよー、ごしゅじんー」

「あぁ、いいぞ」

「――ぅおりゃああッ!!」


 凄まじい速度で石がこちらに飛んできた。

 ……どうやらあとでお仕置きが必要みたいだな。


 投げた瞬間、涙目になったブランシェも気がついたんだろう。

 手加減を忘れて思いっきり投げつけてしまったことに。


 こんな速さじゃ3人には見えないかもしれないな。

 そう思いながらも、俺は迫り来るこぶし大の石を手が届く位置で捌く。

 石を引きつけながら表面を回転させるように手を回し、音もなく受け止めた。


 あまりのことに、俺もはじめて見た時は魔法かと本気で思ったくらいだ。

 どうやら今この子たちも、そんな気持ちなんだろうな。


 ……いや、フラヴィの気配が3人とは違う。

 知識としては知っているが、見たのは初めてってところか?

 そういった驚きと感動が入り混じる感覚のようだな。


 この子はどれだけ俺の知識を受け取ってしまったんだろうか。

 これは他流派から見れば、奥義にすら分類される技術だと思うんだが……。

 ある程度安心できるくらい強くなったら、それについても調べる必要があるな。


 リージェも驚いた様子を見せるが、エルルとブランシェほどではないようだ。


 何か感じ取れたものがあったんだろうか。

 それとも何が起きているのかも分かっていないんだろうか。

 まぁ今は、ぽかんと口を開けているふたりに説明をするのが先か。


「"(えん)"

 俺が得意とする技術のひとつで、"静"に系統する上位技に当たる。

 この技を体得すれば、力の流れをコントロールできるようになるんだ。

 投げつけた石は本来、ほぼ前方に向かって力の流れを持つが、それを回転させることで徐々に力を周囲へ霧散させて無力化した」

「なにそれすごーいっ!!」

「すごいすごい!!

 もっかいやって見せて!!」


 これでもかと瞳を輝かせて感動するエルルとブランシェ。

 思っていた以上にふたりが食いついた。


 その気持ちは分からんでもないが、これは今までの修練で学んで来たものの中でも相当難しい技術になる。

 それをしっかりと説明しないといけないな。


「待て待て。

 これはそう簡単にできる技術じゃない。

 あくまでも将来持つ可能性がある技として見せただけだ。

 今は、こういうこともできるんだと思うだけでいい」


 さすがにフラヴィも驚いてはいるみたいだが、どちらかといえば"いい勉強ができた"と感じる気配をしているように思えた。


 しかし、この技術を体得するには相当の修練期間が必要になる。

 下手をすれば力の流れを巧く扱えずに大きな怪我に繋がるんだが、この世界であれば回復魔法っていう便利なものがあるからな。

 これがあっちの世界にもあれば、怪我が治るまで修練を休むこともなかった。


 ……便利だな、この世界は……。


「……あれ?

 でもさ、それだと大きいものは回避できないんじゃない?」

「それに気がついたのは大したもんだな。

 確かに石程度ならこれで十分だが、大きいものを捌くとなると話は変わる。

 だが、いま見せたのは初歩的なもので、これも昇華させれば奥義に分類されるほどの凄まじい効果を持つんだ。

 さっきの話の続きになるが、何も真正面から大木を防御する必要はないだろ?」


 そう言葉にするだけでエルルは気がついたようだ。

 本当に羨ましいほどの柔軟な発想がこの子にはできるんだな。


「そうか!

 受け止める必要なんてないんだ!

 回避できるだけの"流れ"を与えれば(・・・・)いいんだね!」

「その通りだ。

 さっきは手を回転をさせながら石の威力を無力化したが、対象に力を強く流し込められるようになれば大きな回転すら必要なくなる。

 ほんの少し力の流れを変えるだけで、あとは斜め後方に逸れていくんだよ。

 何も真っ向から受け止める必要はないんだ。

 少しだけ力の流れを変えることで、状況は劇的に変化する。

 さらに強く力を込めれば、大木だろうが斜め後方に弾き飛ばせるってことだ。

 もちろんこれには大木を動かせるだけの力が必要になる。

 それは腕力でも魔力でも、技術力でもいい。

 将来なりたいと思える自分の"力"で手にすれば実現できると俺は思う。

 だから今は見てるだけでも十分なんだよ」


 この技術を体得できれば、単純に相手の攻撃を捌くだけでは留まらない。

 自分が護りきれない強烈な攻撃にも対応ができるようになることだ。

 それも盾だけではなく剣や槍、素手だろうと同じ効果を見せる。


 その上、カウンターを非常に取りやすい。

 流れを掴むことができれば、相手よりも圧倒的優位に立てるのが強みだ。

 むしろこの技術を体得すれば極端に強くなるほどの凄まじい"力"になるだろう。


 俺がディートリヒたちとの訓練で攻撃を捌き続けた力の一端になるが、当然この技術を学ぶには相当の時間を必要とする。


 しかしエルルであれば、奥義に分類するこれを魔法で実現できるだろう。

 ブランシェであれば腕力、フラヴィであれば技術力でいずれは体得できるはず。


 リージェはどういった力で手にするかまだ俺にも見えないが、物覚えのいい彼女は恐らくエルルやブランシェと同じくらい早く体得できるかもしれないな。

 そう思えるほどの柔軟な発想力と対応力を持つみんなならと、期待してしまう。


 ……まぁ、それもすべて将来の話になるだろうけどな。

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