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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第九章 空に掲げた手
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報われることを

「……本当に、いいんだな?」

「はい、お願いします。

 私がこの場所を移動するためには、そうすることしか方法がないと思いますし」


 強い決意のもとに答える女性。

 対照的に俺はどこか彼女の勢いに飲まれつつあった。



 休息を取って数時間。

 朝日が空を白みはじめた。


 それから随分と色んな方法を試してみたが、そのどれもが効果を見せなかった。

 折った枝を行動範囲外と思える場所まで持って行ったが、有力かと思えたこのやり方でも、結局はその場に留まることしかできなかったようだ。


 やはり、大樹をどうにかしなければならない。

 そうするしか方法が見えなくなり、はっきりと彼女が意思を示している現在でも、俺は彼女に悪影響が出る可能性を拭いきれずにいた。


 かといって、文字通りの旅に俺たちと出たいという彼女の願いも叶えたい。

 こんな誰も来ない場所でひたすら独りですごすなんて俺には耐えられないし、何よりも彼女がそれを望んでいるんだから、できる限り希望に添えるようにはしたいと思う。


 ……情けないな。

 彼女がこれだけ強い覚悟を見せているのに、俺はためらってしまう。

 もしかしたらと考える気持ちを抑え切れずにいる。


 心配そうに見つめる子供たちの方から声が届いた。


「……トーヤ」

「……あぁ、分かってる。

 この方法しか見えなくなったんなら、それを試すべきなんだ」



 "自分を信じろ"なんて言葉がある。

 だがそれは、努力に裏づけされた技術を手にすることで意味をなす。


 まるでゲームやアニメで使われる必殺技のように、物理的な具現化ができてしまう魔法やスキルを信じきることは難しい。

 そうできるだけの修練を積んだわけでもないし、それも仕方ないんだが。


 疲労感が抜けていないのか、どうにもネガティブな思考になっている。

 彼女が人の姿を保てなくなるのが俺には怖いんだろうな。

 もしそうなれば、あの女性とは違った意味で植物の姿しか取れなくなる。


 今もインベントリで静かに眠る彼女とは違う。

 もう二度と自由に行動ができなくなるかもしれない。

 強力な媒体で目が醒めると推察している彼女とは違うんだ。


 どちらもまだ可能性。

 だが、俺には決定的な差があるように思えてならない。


 収納するだけのはずが、これほど悩むことになるとは思っていなかった。

 そんな情けない俺を優しい眼差しで見続ける彼女は、諭すような声色で答えた。


「何もしないで後悔するよりも、私は何かを行動して後悔したいのです」

「……それは……いや、そうだな。

 俺でも、そうすると思うよ」


 その言葉を聞いて、俺はようやく覚悟を決めることができた。


 本当に不思議だな、この世界は。

 俺の知る場所とは明らかに違うはずなのに、俺と考えが似通った人たちが集まってくれているように思える。


 "類は友を呼ぶ"、なんて言葉もあるくらいだ。

 なんら不思議なことではないのかもしれないが。


 大樹に手をかざし、俺はスキルを使う。

 今度はためらいや恐怖を感じることはなかった。

 俺の中でどこか確信できたのかもしれない。


 いや、これは確信ではなく、俺自身が信じたいだけなんだろう。

 俺と同じ考えを持ち、すぐ隣に立つ女性が見せてくれた覚悟が報われることを。

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