希望
恐らくは彼女が持つ本来の輝きなんだろうな。
とても鮮やかな、まるで咲き誇る桜のように美しい姿だった。
……だが。
さすがに今回は疲れた。
久しぶりだな、この全身が痺れるような疲労感は……。
無心でひたすら修練していた頃を思い起こさせる疲れだ。
あの頃はよくこんな状態になってたな。
ただ闇雲に剣を振っていたようにも今更ながらに思うが。
あれもきっと今に繋がっているのかもしれない。
正直、こんなにも感情的になるなんて、俺らしくなかったな。
周囲の気配を探ることすら忘れていた俺の体を温かいものが包み込んだことに気がついたのは、わずかともいえるほどの短い時間が経ってからだった。
しがみつくように強く抱きついた子供たちは、それぞれの想いを紡いだ。
「……暑いぞ」
「トーヤ……トーヤ! すごいよトーヤ!」
「ぱーぱ、ほんとに、ほんとにすごいの……。
おねえちゃん、とっても……げんきになったの……」
「ごしゅじんは最高のごしゅじんだよ!
アタシ、ごしゅじんの傍にいられて、ほんどに良がっだ!」
大げさだな。
このひとを救えたんだから、それでいいじゃないか。
……だからみんな、泣かないでくれないか?
ステータスを確認してみると、ヒールとキュアの性能が上昇していた。
ある意味で限界を超えられたのか、"Ⅳ"の文字表記が俺には誇らしく思えた。
これで色々な可能性も見えてきた。
すべての英数字スキルはⅣに到達できる。
俺にはそう思えてならなかった。
それもその効果はずば抜けて高まっているようだ。
いや、これはもう最高位の魔法と思ってもいいのかもしれない。
そう感じるほどの凄まじい効果を持つと、画面には表記されていた。
"ヒールⅣ"
対象が死亡していない限り、ありとあらゆる負傷を治療する。
"キュアⅣ"
対象が死亡していない限り、ありとあらゆる異常を治療する。
相も変わらず適当な説明文に、笑いが込み上げてくる。
誰だよ、こんな文章作ったやつ。
適当にも程があるだろ。
もう少し丁寧に書けよな。
だが、もうひとつ俺はユニークスキルを手にしたようだ。
それこそヒールやキュアのⅣよりもさらに上位のスキルに思えた。
これは俺が無意識に使い、彼女を救ったスキルになるのかもしれない。
……空人ってのは、本当にとんでもないスキルを持つみたいだな。
"エスポワール"
身体、精神、状態異常、瀕死を含む、ありとあらゆる異常を正常の状態に戻す。
"希望"と付けられた、闇に属した魔法を扱う俺にはとてもそぐわないと思えてしまうような完全回復スキル、か。
正直、俺には使いどころがよく分からない。
それでも瀕死に対しての回復手段を持てたことは非常に大きい。
瀕死状態を治すには、マナポーションどころじゃないほどの非常に高価な秘薬か、専門職が使うと思われる特殊な回復魔法が必要になると聞いている。
さすがに俺も持っていないし、この魔法が効果を見せるならかなりありがたいスキルではあるが、そもそもこの子たちをそんな目に遭わせるつもりは毛頭ない。
そうさせるつもりで襲ってきた馬鹿をぶった斬らない理由もないし、そうならないように万が一の可能性に備えて修練を積んでもらっている。
油断や慢心は危険だが、そんな敵が出たらためらいなく両断するだろうな。
凄まじいスキルを入手できたが、今はいい。
今はただ、目を丸くして驚く女性を救えたことだけを良しとするか。




