あの場所を
教会から出てすぐ、エルルはある提案をした。
その考えは俺も頭をよぎったが、果たして了承していいものかは判断し辛い。
それでも、力強く言葉にするこの子の気持ちも分からなくはなかった。
「やっぱり、あのお姉さんのところに今から行こう!」
「今からって、今日はゆっくり休んだ方がいいんじゃないか?」
そう思えてならない俺だったが、想像していなかった子からの発言に戸惑った。
「ふらびいもさんせい。
おねえちゃんのところにいこ?」
「だ、大丈夫か、フラヴィ。
無理をすると疲れが一気に出てくるぞ?」
「だいじょうぶ。
ううん、がんばる。
おねえちゃんのために、がんばりたいの」
「……そうか」
頼もしく思える成長を見せているようだが、疲れて動けなくなれば俺が抱かかえれば済む話か。
残るブランシェに視線を向けると、この子からも想像していた答えとは違う言葉が出てきた。
「行こう、ごしゅじん。
アタシもすぐ行きたい」
3人の意見は一致している。
俺もそれに賛成したいところだが、ブランシェはともかくフラヴィとエルルの体力が持つかは心配だ。
町の中で動けなくなるのはまだいい。
しかし、浅いとはいえ森の中となれば話は別だ。
いや、それも修練としては必要不可欠だが、まだ早い気が……。
さんざん悩んで悩み続けた結果、結局は俺がしっかり護ればいいという結論に辿り着いた。
「……わかった。
それじゃあ今からあの場所を目指そう」
「――! うんっ!」
ぱぁっと表情が明るくなるエルルとフラヴィ。
ブランシェはどこか不思議な気持ちになっているみたいだ。
あれからずっと何かを考え続けているように思えた。
……もしかしたら、母親と重なって見えているのかもしれないな。
しかし、"俺が護ればいい"なんて考えを持ち続けることは、かなり良くない。
フラヴィが生まれた頃ならいざ知らず、状況は随分と変わっている。
暗殺者がどの程度の強さを持つのか未知数だし、面倒な効果を持つ魔導具や能力を使われると非常に危険だ。
特に注意を払うべきなのは、相手のマナを封じる類の力か。
魔導具にもあるこの効果を使われたら厄介極まりない。
キュアを封じられながら毒攻撃をされたら、一撃でも致命打になりかねない。
当然、解毒剤は持ち歩いているが、効果を見せるかも分からないんだ。
それにこの子たちを人質にしようとする可能性だって十分に考えられる。
相手が複数、それも10人以上で全方位から同時に襲われた場合、俺にはもう手段がひとつしか思いつかない。
そんな状況となれば、力を解放して瞬時に殲滅するしか方法がなくなるだろう。
手加減のできない状況下では、相手の命を確実に摘み取ることになってしまう。
命を奪いに来た敵に情けは必要ない。
だが、暗殺ギルドの本拠地を聞き出せなければ、今後も狙われ続ける。
世界を呪いながら嘲笑える精神を持つような頭のおかしい連中を相手に、通常の攻撃では自害されてしまう。
それを阻止する方法はすでに持っているが、確実に摘み取りに来る多人数への対応策を早急に見つけなければならない。
俺の持つ闇属性魔法は単体を対象としたものばかりだ。
状況にもよるが、これでは役に立たない可能性の方が高い。
新しい魔法は自らが創り出すものではない。
どちらかといえば、ある日突然閃くような感覚がいちばん近いだろうか。
まるでゲームのように思えてならないが、これが意味するところは俺にエルルのような発想力や独創性、創造性を持ち合わせていないということだろう。
それがもし可能なことだとしても、ゼロから組み上げる力は時間がかかるはず。
となれば、創り出したオリジナルの魔法ではなく、現在手にしているスキルを強化、もしくは新たに手にした能力に頼った"何か"を見つける必要がある。
多人数でも一撃で無力化する魔法を。
相手を同時に攻撃し、この子たちを護れる力となる能力を。
……あるにはある。
しかし、これは使えない。
ステータス画面にはすでに記載されている魔法。
その名から闇属性に系統するのは確実な攻撃魔法だ。
だが、この魔法は試しに撃つことすらためらう。
俺の推察ではこの魔法が持つ威力は、笑えない強さを持つだろう。
闇属性魔法"ダークフレイム"
前後左右問わず、使用者の任意で周囲のすべてを焼き尽くしてしまう。
敵対する者のみに効果を見せるこの魔法は、畏怖の対象にすらなる力だ。
それを確信するだけの圧倒的な威力を、この魔法は確実に見せつけるだろう。
本能的にそれを理解しているこの感覚が間違っているとはとても思えない。
まず間違いなく、周囲の敵すべてを消し炭にしてしまう効果を持つ攻撃魔法だ。
……まったく。
どうしてこうも中途半端に効果が高い魔法しか覚えられないんだ。
魔法ってのは、初心者クラスから徐々に学んでいくもんじゃないのか?
いや、これは俺の属性が悪いのかもしれないんだが……。




