上り詰めた冒険者
ギルドでの食事も楽しそうだな。
ここは早い、安い、美味いをウリにしているらしい。
今度はこういう場所で食べてみるのもいいかもしれない。
そんなことを考えている時だった。
ひとりの冒険者が俺とぶつかりそうになる。
直前で気がついた銀鎧に金髪の男性は、落ち着いた声色で答えた。
彼の碧眼はどこか神秘的に見えるが、この国では良く見かける色かもしれない。
「――と、済まない。
考えごとをしていて、危うくぶつかるところだった」
「問題ない。
気にしないでくれ」
「いや、子供に当たったら大変だ。
以後気をつける」
あぁ、そうしてくれ。
頭の中で俺はそう思った。
万が一ぶつかったとしても、この子たちなら平気だとは思うが、それでもあまりいい印象を与えないだろうからな。
男性冒険者がギルドから立ち去ると、ざわめきが起こっていた。
子供連れでここに来るのはそう珍しくもないはず。
ということは彼が話の種になっているのか。
耳を食事している客に向けると、興味深い話が聞こえてきた。
「相変わらずかっこいいな、ユリウスさんは」
「……はぁ……いつ見ても素敵な人ね……」
「好きな方とかいないのかしらね」
「そういえば聞いたことないわねぇ。
私、告白してみようかしら」
「俺も一度でいいからあんなふうに仲間を護ってみたいぜ」
「よせよせ! お前に防御を任せてちゃ安心して戦えねぇよ!
ランクSの鉄壁ディフェンダーだからこそできるんだぞ!」
……ランクS。
そうか、彼が最高峰のランクまで上り詰めた冒険者か。
思っていた以上に芯のある強さを感じた。
自惚れる様子も見せないし、性格も悪くない。
年齢も20代後半くらいだろうか。
案外もっと年上なのかもしれないが。
だが……。
いや、それは俺が考えることじゃないな。
彼自身が克服すべき問題だし、口に出すことは避けるべきだ。
* *
「それではこちらにどうぞ」
受付の女性に例の手紙を渡すと笑顔で対応をしてくれた。
くるんとした短い栗色の髪でとても可愛らしい顔立ちの女性だが、そこはやはり大きな町のギルドで職員をしている人だ。
新人と思えるような若さでありながら、取り乱すようにしたりも先輩に訊ねようともしない姿に、デルプフェルトの職員であるクラリッサを連想させた。
彼女のような人はそうそういないと思える。
だが、対応される側としては悪い気はしなかった。
立ち上がる彼女を呼び止め、俺はもうひとつの件を訊ねた。
「すまないが、冒険者をひとり探している。
男の名は、フリートヘルム・ベーレンドルフ。
13年ほど前にこの町で活動していたと聞いたが、何か分からないだろうか」
俺の問いに顔色を変えずに女性は答えた。
人を探す依頼をギルドにする場合、本来であれば身分証を提示する必要がるはずだが、ギルドマスターに直接手紙を持ち込むような者を調べたりもしない、ということを意味しているんだろうか。
若干、セキュリティーに問題があるように思えなくもないが、これは俺が口を出すことでもないから、手間が省けたと思うとするか。
「それほど以前のことともなれば、お調べするのに少々お時間をいただきます。
当ギルドをご利用された方の経歴は記録として残っていますが、ご希望に添えるような情報を開示できない場合もございますのでご了承ください。
お話を伺っている間に、代わりの者が対応させていただきます」
職員が右手のひらで横を示した先にいる女性へ視線を向けると、笑顔で立ち上がった隣の女性は軽く一礼したのち言葉にする。
「承りました。
それではお調べいたします」
綺麗に切りそろえられた赤茶色の髪をさらりと揺らし、美しい笑顔で女性が答える姿に、プロってのはみんなこんな感じなんだろうかと思ってしまう俺がいた。
どうやらクラリッサだけでなく、受付とは本来こういうものなのかもしれない。
そんなことを考えながら、はじめに話しかけた受付女性に連れられてギルドマスターの部屋へと向かった。




