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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第九章 空に掲げた手
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扱いやすい武器を

 あれから何度か魔物と遭遇したが、人の姿になったブランシェは狼のままよりも攻撃のバリエーションが遙かに増えていた。


 それどころか身体能力を活かした強力な一点集中攻撃ができるようで、連発こそできないが一撃で魔物を刈り取ってしまうほどの強さにまで成長してるみたいだ。


 ブランシェは今、ショートパンツにレザーアーマー、レザーブーツのとても動きやすい服装に、重さを重視した大剣を片手で軽々と扱っている。

 そもそも彼女が片手剣のように振るうトゥハンドソードはその名の通り、本来両手で振り下ろして相手をその剣の重さで叩き潰すような使い方をするはずだ。

 それを片手で棒切れのようにぶんぶんと振り回すこの子の腕力は、やはり突出しているとしか思えない。


 それもすべてフェンリル種という最上位魔物の特性と言えるんだろうが、人の姿をしている以上、もはや魔物とはまったく定義されることがないほどの進化を遂げたのかもしれないな。


 しかし、そんな彼女でも技術面では拙いままだ。

 これは改善の余地がいくらでもあるから今は置いておくとして、この子専用の武器を町で手に入れる必要があるな。

 後ろから見ただけではっきりと分かったが、念のためブランシェに訊ねてみた。


「やはり軽いか?」

「うん。

 アタシにはなんかこう、しっくりこないかなー」

「それでもブランシェ、すごく強かったよ?

 その剣だってあたしには重すぎて持てないし、それじゃだめなの?」

「んー、だめってことはないんだけど、違和感があるっていうか、あんまり気分が乗らないっていうか……」


 曖昧な表現で言葉を濁すブランシェだが、その理由もおおよそ掴んでいる。


 この子には両手剣ですら軽すぎるんだ。

 いわゆる戦斧か戦槌か、そういった重量の武器がいいんだろう。


「ブランシェには両手剣よりも重い"超重武器"が合ってるのかもしれない。

 これも町についたらになるが、ブランシェ専用の武器を探してみよう。

 なければ何かオリジナルで作ればいいんだが、それは経験を積むことを優先してからにした方がいいだろうな」

「重くて扱いやすいのなら何でもいいんじゃないの、ごしゅじんー」

「いや、それじゃきっとダメだと思うよ」


 そもそも武器とは、命を預ける大切な相棒だと言葉にする者も少なくはない。

 安易な考えで適当に武器を選ぶことは、最悪の結果を導きかねないんだ。

 俺も扱いやすい武器を選んで使っているが、いずれは俺専用の武器を見つける必要がある。

 ロングソードをくれたフランツには悪いんだが、もっとしっくりくるものじゃなければ十全に力が出せない。


 理想は刀だな。

 真剣での鍛錬も必要になるが、あれなら確実に全力を出せるようになるはずだ。

 幅の広い西洋剣では奥義すら満足に出せないかもしれないし、最悪の場合は力加減が巧くいかずに武器が粉々に弾け飛ぶだろう。


 だが、そんなものがこの魔法が発達した世界にあるとは思えない。

 現実世界であれば野太刀くらいはある時代だし、探すのもありかもしれないが。


 そんなことを考えながら、俺はブランシェに話を続けた。


「人にはそれぞれ合った武器種ってのがあるんだ。

 でもそれは色々な種類の武器を使ってみたり、自分がどんな戦い方をしたいかでも形や重さがまったく変わってくる。

 オリジナルの武器を作るにしても、ある程度は実戦経験を積んでいかないと形が見えてこないものだと思うよ」

「難しい話だけど、経験を積めばアタシに合った武器が見えてくるってこと?」

「俺はそう思うよ。

 それが見えずに武器を作ると後悔するかもしれない。

 "もっとこういうのがよかった"なんて、作ってから思うことになる」


 手に持っただけで"これがいい"なんて分かるやつは達人だけだ。

 そんな領域まで技術を高めるには、まず数年じゃ足りない。

 それに特注の武器ともなれば、いくらかかるのか見当もつかない。


 だったらいずれ向かう迷宮都市で探してもいいだろう。

 10階層ごとに部屋を護るボスっぽい敵から何か手に入るかもしれないし、安価で売っている武器よりも遙かにいい武器のはずだ。


 最終的には魔道具を……なんてのは、まだまだ先の話だな。

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