とってもすごいことなんじゃ
それだけじゃなく、これにはもうひとつ大きな意味を持っている。
エルルは質問しながらも、自分で答えを見つけたようだ。
この子の物分りの良さに俺は嬉しく思えた。
「それって、普通に売ってる防具の盾じゃ……って、そっか……」
「気がついたみたいだな」
「うん。
お店で売ってる盾は、腕力がなければ持てないよね。
でも、魔法ならあたしでも盾を持てるんだ」
「その通りだが、他にもいくつか理由がある。
防具の盾で相手の攻撃を防御するには、腕力だけじゃなく脚力も必要になる。
地面を踏みしめられなければ、吹き飛ばされることにもなりかねない。
もちろんそれだけじゃだめだから、体をしっかりと鍛えないといけない。
それに、耐えられないほどの威力をそのまま防御すると危険なんだ。
盾ってのは、巧く力の流れを受け流すことができなければ、まともに扱えないと思っていいだろうな」
「そういった技術もなければ、盾を持っても本来の効果を出せないってことだね」
「そうだ。
防御するか、受け流すか。
そのどちらも卓越した技術が必要になる。
単純に攻撃を避ける目的なら、わざわざ重い物を持つ必要もないだろ?
行動に制限がかかるだけじゃなく、体力的にも大きく影響を受けるからな。
盾ってのは奥が深く、極めた盾術は奥義にも分類される技術になる」
俺の話を真面目に聞いてくれる3人だが、ここで俺は子供たちに問いかけた。
「じゃあ、ここで問題だ。
防具の盾に技術が必要なのは、いま話した通りだ。
強化させることと軽く扱いやすいことの他に、魔法盾がいい理由はわかるか?」
「えぇ!?
……えっと、えっと……」
一生懸命考えるエルルだが、もうひとつの利点があることに気がついていないみたいだな。
それも重要な要素のひとつになりうる力の一端となるが、答えは出なさそうか。
残念に思っていると、この子は自力でその可能性に辿り着いたようだ。
やはりこの子はどこか年齢相応とは言えないほどの理解力があるように思えた。
「……んー。
……魔法なら、相手の攻撃を受け止めても重さを感じないから、かな?」
「そう、大体その認識で合ってると思うよ。
魔法盾なら腕力は必要としない可能性があるんだ。
恐らくは魔力が腕力の代わりに影響すると俺は予想している。
それかステータスが無意味なものでないのなら、関わってくるのは魔力値か。
もしこれが正しい知識なら、子供のエルルでも魔法を磨き続けば十分に大人と渡り合えるだけの強大な力を手にすることになるんだよ。
それは盾であり、壁であり、用途次第で攻撃魔法としても使えるものになる。
下手に上級魔法を修めた魔術師よりも、エルルは強くなれるかもしれないんだ」
その言葉の真意がどういう意味を持つのか、子供のこの子でも理解したはず。
だからこそ、身を引き締めるような気配を感じさせたんだろう。
緊張で強張る表情のままエルルは答えた。
「……それって、とってもすごいことなんじゃ……」
「あぁ、そうだな。
ひたむきに修練を続ければ、この世界の頂点にいるランクS冒険者にすら勝てるだけの力にまで昇華できると俺は予想している。
それには"静"と"動"もしっかりと学ばなければならないし、魔法の質を上げ続け、さらには戦闘の知識も身につける必要があるだろう。
魔法で身体能力を強化できる可能性もあると思うから、もう少し修練を積んだらそれについても学んでいこう」
「ぱーぱ、まほうなら、なんでもできるのかな?」
「どうだろうな。
でも武器を振るうよりも幅広い活躍ができることは間違いない。
だからといって蔑ろにはできないから、欲を言えばどちらも必要なんだろうな」
武術と魔術を極めることは、敵対者を倒すのに最高の力となるかもしれない。
200年前、この世界に存在したという伝説の聖女レリアがそうだったように。
どちらも体得することで、別の次元へ向かえるほどの強さを手にできるはずだ。
文字通りに時空を越えるようなことはできないだろうが、もしかしたらそこに帰還への道が繋がっているのかもしれないな。
まぁ、この話のすべてが未だ憶測の域を出ないから、まずはそれをしっかりと検証していく必要はあるんだが。




