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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第九章 空に掲げた手
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なんてとんでもないものを

 いま起こった事象を考えるも、答えらしきものが出てくることはなかった。


 エルルが出した魔法壁と思われる物体は、10メートルほど進んだあと消えた。

 それも彼女が右手を握り込んで消失させたところから察すると、しっかりと魔法のコントロールができているようにも思える。


 しかし、こんなことが可能なんだろうか。

 少し話しただけで、"静"を体得できるとも思えない。

 これは確かに基礎的な技術になるが、そう簡単に学べるとは考えにくい。


 新たな魔法として発現させた応用力は基礎を大きく超えるものだと思えるし、何よりも魔法壁に粗はかなり少なかった。

 あのクオリティーなら粗い部分を狙って魔法を霧散させるより、状況によっては回避した方がいい場合もあるだろう。

 彼女が放ったものは、そういった完成度だった。


 火の威力を極端に減らし、相手に致命的な怪我を与えることなく吹き飛ばせる。

 力の入れ方次第で押さえつけることもできると思えるコントロールを見せた。


 相手を押し出すことも吹き飛ばすことも、盾のように護ることもできる魔法か。

 なんてとんでもないものを編み出したんだよ……。



 同時にエルルは気配察知を彼女独自の視点から何かを学び取ったようで、わずかにではあるがフラヴィよりも広範囲の気配を感じ取れるようになった。

 さすがにフラヴィとは違い、はっきりとした姿で知覚はできないようだが、それでも驚異的な知識の吸収力に、驚きを通り越して俺は引いていた。


「あたし、お姉さんだからね!」


 えへんと胸を張りながら答えるエルルだが、そんな言葉ではとても言い表せないほどすごいことをしたのを、どうやらこの子は理解できてなさそうだ。

 努力で到達できる領域を知る俺にはあまり考えたくはないことではあるが、彼女はいわゆる"天才"と呼ばれる子なのかもしれない。

 コツを掴めば察知できる気配の範囲を極端に伸ばせる人がいると父さんから聞いたことはあるが、実際にそれを目の当たりにすると何とも言いようのない複雑な気持ちになる……。


 だがその圧倒的とも言える技術の理解力は、様々な点において強い武器になる。

 頼もしく思える一方で、教える側としては早々に体得されると表現し辛い寂しい気持ちを感じるものなんだな。


 しかし、これで色んな可能性が見えてきた。

 この子が見せた新たな魔法は、彼女自身の質を大きく高めるものだ。


 そんなことを考えていると、何かを静かに考え続けていたエルルは訊ねてきた。


「トーヤの使う気配探知ってさ、魔力感知にかなり似てるね。

 どんな生き物でも微弱な魔力を放ってるでしょ?

 なら魔力感知も使いこなせれば、なんでも見えちゃうんじゃない?」


 とても子供とは思えない話をさらりとした。

 確かにどんな生き物にもそれを感じるだけのものを発している。

 だがそれは魔力ではなく気配で、いわゆる生命力とも呼ばれる波長を感じ取っていると表現する方が正しい。


 やはりこの子は気配ではなく、魔力の方が感じ取りやすいのか。

 どうやら魔法に適正があるどころじゃないほどの才覚を持つ子のようだ。


 とはいえ、幼い子が持つには少々危険な考えだとも思えた。


「今のところ俺にはすべて見えてるが、確実に見えると判断するのは危ないぞ。

 世界は広いんだから、何事にも例外はあると思って行動した方がいい」

「確かにそうなんだけどね。

 あたしたちはみんな、トーヤに護られてばかりじゃ良くないと思うんだ。

 だから魔力感知も修練したいと思うんだけど、どうすればいいの?」

「どうすればって言われても、これに関しては教えたことがないからな。

 言葉で表現するなら、魔法にはウィークポイントが存在するんだ。

 マナの粗い、いや拙い部分と言えば分かりやすいだろうか。

 それを見極められるなら勉強になるかもしれないな。

 あとは魔力を感じ続けるとか、そんなところか。

 ……しかし、正しいのかも分からない知識だな、これは……」


 それを見極める技術は、そもそもこの世界に降り立ってから学べたものだ。

 俺も誰かに教えられるほどの経験を積んでいないし、言葉で話したところでそれが正確なものなのかも判断できない。


 確かにこの技術を高めていけば、魔法での攻撃も飛んできたものに対する防御も劇的に強くなれるとは思えるが、修練するともなればやはり魔力を感じ続けるか、魔法の粗を見つけて霧散させるくらいしか方法が思いつかない。

 それをこの子達に話すと、予想外の答えが返ってきた。


「ふらびい、あらが、わかるかも?」

「わかるのか?」

「たぶん?」


 首を傾げながら答えるフラヴィに驚愕することしかできなかった。

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