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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第八章 オ・ブ・デュ・デジール
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渡せるのなら

「それでそれで?

 なんて書いてあるの?」


 興味津々のエルルはとても楽しそうに訊ねるが、ここに書かれている内容は俺も想像していなかったものだった。


「……要約するとこうだな。

 ある場所の奥底に、本物のお宝(・・・・・)が隠されているらしい。

 それもルートヴィヒには手に負えないもので、売り飛ばせなかったとある。

 価値にして数千万ベルツはくだらないシロモノで、アーティファクトかレジェンダリーと思われる希少性の高い剣みたいだな」


 そんなものが本当にあるのかも眉唾な話だが、わざわざ古代語で残した理由もここに書いてあった。


 ルートヴィヒは古代語を解けるだけの深い知識と、彼のお宝を見つけ出した者にそれを託したいと残している。

 そこには空人の所有する言語理解スキルについても書かれていて、同じ空人に剣を渡せるのならそれがいちばんだと思ったようだ。


 同じ理由で手がかりとなる地図や文献を容易に判別できないような細工として、古代語を用いた文章を書き記したらしい。

 現在ではローベルトのように彼を博識だと言葉にする者もいると思われるが、実際には空人特有のユニークスキルである"言語理解"を使ったにすぎなかった。


 空人に悪人はいない。

 そう彼は確信しているようだが、実際にそれが正しいのか俺には判断できない。

 だが少なくとも彼は、自分と同じ空人に託したいと願ってたようだ。


 しかし彼自身その剣を手にすることは適わず、持ち帰れなかったと残している。

 それがどんな理由かはここには書かれていないが、正確な場所は記されていた。

 どうやら剣を見つけたところで、どうこうできるものではないらしい。


「持ち手を選ぶ特殊な剣だとルートヴィヒは考えていたみたいだ」

「それじゃあ、トーヤでもさわれないかもしれないってこと?」

「そうだろうな。

 だが、そういった剣はいずれ持ち主が引き寄せるだろうと、彼は信じていた」

「遠い場所なの?」

「ここから北にある町の西になるだろうか。

 フェルザーの湖からだと北部の東になるが」

「……ちょっと待って。

 フェルザーの湖って、そんなに大きいの?」


 呆れた様子でエルルは訊ねるが、俺もその疑問は持っていたことだった。


「あぁ、世界最大の湖と言われてるからな。

 その大きさは海のように広いらしいぞ」

「……そ、そうなんだ……」

「あのみずうみ、とってもきれいなの。

 ふらびい、おおきくなったら、およいでみたい」

「わぅわぅわぅ!」

「うん、ぶらんしぇもいっしょにおよごうね」

「わふっ」


 ふたりが楽しそうに話をする中、エルルはぽつりと呟いた。


「……あたし、泳げるのかな?」

「魔物もいるかもしれないから、泳げるとしてもみんなが強くなってからだな」


 水中で襲われたら俺でも対処ができないかもしれない。

 できれば泳ぐのは泉みたいな底の浅い場所でしてほしいもんだが……。


「さて、そろそろ出るか」

「うん、そうだね。

 素敵な宝物も見つかったし、満足できたよ」

「はこ、とじようね」

「そうだったな」


 宝箱が開けっ放しだったことに気がつき、静かに蓋を閉じた。

 古代語で書かれた紙も日記に戻し、部屋を出る。


 鎖の取っ手を引くと、再び石の扉が部屋を隠した。

 いったいどういった原理になっているのか俺には分からないが、こういったものは古代からある仕掛けだし、あまり深く考えても理解できないだろうな。


 階段を上り、外に出る。

 周囲に悪意がないのを確認してもう一度岩壁を登り、スイッチを押した。

 予想通り閉じられていく音が聞こえ、安堵しながらみんなと合流する。


「これで、誰もここを見つけられないってことだね」

「あぁ」

「ゆっくりねむれるといいね」

「そうだな。

 地図も置いてきたし、きっと大丈夫だ」

「そういえば、古代語で書かれた紙も置いてきちゃったけど、良かったの?

 正確な場所がしっかり書かれていたんでしょ?

 忘れちゃったら取りに行けないよ?」

「それならそれでいいと思ってる。

 一応記憶したが、それほど興味もないから見つけに行くかも分からない。

 それに強力な武器ならそのまま眠らせておくのもいいと思えたんだよ」

「そういうものなのかな」


 ひとさし指をあごにつけて首を傾げながら言葉にするエルルだが、過分な力はかえって身を滅ぼしかねないとも聞く。

 もし本当にその力が必要なら、その時に取りに行けばいいと俺には思えた。


 まぁ、そんな状況になれば、こうして穏やかに旅ができないってことを意味するんだが、そうはならないように気ままな旅を続けたいところだ。

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