心の中では
4人が帰ったギルドマスターの部屋に残るふたりは、話に花が咲く。
特にローランはトーヤの話を聞いて、ぜひとも会いたいと即答したくらいだ。
「フィリーネに聞いていた通り、いい男だったな」
「でしょう?
とっても素敵な男性よ」
「……力になりきれないのが不本意だが、それもしかたないか」
「必要以上に関わるのは他の町への干渉にもなるし、何よりもここからじゃできることが非常に限られてる。
下手な行動は彼の邪魔になりかねないわ。
"何もできない"ことが"彼の力になる"だなんて、本当に皮肉な話よね」
ふたり同時にため息をつく。
可能であれば力になりたかった。
しかし、それにも限度がある。
この町で起きることならば力になれるが、恐らくはこの周囲で何かが起こることはなさそうだ。
バルヒェットに入った痕跡が見つからない以上、北を目指しているのだろう。
そうでなければ大変な事態に陥ることになる。
もうすでに"敵"の間者が間近に迫るかもしれない。
それを完全に否定できない以上、これからも警戒を続けるべきだ。
「……せめてトーヤさんが襲われないことを祈るしか、私達にはできないわね」
「……だな」
「――ぅおりゃっすよーッ!」
どばんと扉を開けるルーナに、こめかみを押さえながらフィリーナは咎めた。
「……あなたの辞書にノックという言葉は載ってないようね……」
「いやん、怒っちゃいやっすよー!
ちゃんと載ってるっすー!
心の中ではしっかり扉をとんとんしてるっすよ?」
「……相変わらずぶっ飛んでるな、ルーナは……」
くねくね身体をよじる彼女に、ローランは呆れながらも言葉にした。
「おっすおっす!
昨日ぶりっすねー、筋肉おじじ!」
「誰がおじじだ!
これでも"お若いですね"とよく言われるんだぞ!」
「あーあー、筋肉おじじのお小言は、その胸板と同じくらいうるさくって適わないっすー」
「……ぐぬぅ……」
「報告を聞くわ」
「はいはーい!
やっぱ持つべきものは理解してくれる母親っすねー!」
一気に老け込んだかのようなため息が、ふたりからもれた。
とはいえ、ルーナが優秀なのはローランも知っている。
それも彼女はこの国の中でも1、2を争うほど超優秀だ。
あくまで諜報活動に限定してではあるが、その信頼性と確実性はランクSに申し分ない。
「他に被害者が出なかったことから、毒は"白羊の泉亭"裏手の井戸にのみ放り込まれているのは明白っす。
遅効性を考えて念のため調べたっすけど、毒の反応は検出されなかったっす。
男の動機も、先日の犯人確保後のやり取りの通りみたいっすねー。
モテナイ男がフラれた腹いせにする行動にしちゃぶっ飛んでるっすけど、それ以上調べても進展はないどころかマルティカイネン家とも無関係っす」
「……そう。
他に気になったことは?」
「あとは特にないっすねー。
しいて言えば、トーヤっちにアタシの存在がバレたことくらいっすかねー」
「バレたって、あなたいったい何をしたの?」
「なーんもしてないっすよ。
……それどころか、アタシは完全に気配を絶ってたっす」
いつもとは違う真剣な表情に彼女は変えた。




