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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第八章 オ・ブ・デュ・デジール
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弾くことでしか

 結局、犯人からどんな毒を入れたのか、未だに聞き出せないでいるらしい。

 イライラするエゴンとこめかみに指を当てるヨーナスの姿が目に浮かぶ。

 相手がアレじゃ、それもしかたないのかもしれないな。


 しかし、はっきりと自白してもらわなければ事件解決が遅れるだけだ。

 現状の薬師では解析が難しい以上、男に話してもらわなければならない。

 それも住民が再び強い不安と恐怖を感じる前に、なんとしても。


 早めに解決できなければ、憲兵隊への不信感に繋がりかねない。

 取調べに躍起になっているんだろうが、ああいった犯人からどうやって聞き出せばいいんだろうな……。


「憲兵隊の皆様も努力して下さっているのは十分理解できるのですが、どうにも会話にならないようで毒の解明には至っていないのが現状と聞いています」

「ああいった相手には、いくら言い聞かせても改心することはないと思います」


 俺はあの男を捕縛する前、何度も反省の機会をやった。

 だが改心どころか悪意しか向けてこないやつには、何を言っても無駄だ。

 むしろ説教をすれば男の反感を買い、また別の事件を起こすかもしれない。

 今度はより殺傷性の高い方法で、笑いながら実行に移すんだろう。


「……この町は多少大きいとはいえ、噂が広まるまで3日とかからないでしょう。

 彼の凶行はいずれすべての住民に知れ渡るようになり、被害に遭われた方のようにこの町にはもう二度と入って欲しくないと思われるようになるかもしれません」

「そうすることでしか大切な家族を護る術が思いつかない人達もいる、ということなのでしょうね」

「はい……ですが……」


 朝日が差し込む窓の外に視線を向けて司祭は言葉にする。

 その姿は笑顔でありながらも複雑なもので、とてもやるせない気持ちであふれていた。


「……悲しいことです。

 人が人を裁くことは致し方のないこととはいえ、それでも弾く(・・)ことでしか安心して暮らせないと思えてしまうなんて……。

 これでは誰のための教会なのか、分からなくなりそうです」

「女神の教えを説くのが、教会のいちばん重要なことなのでは?」


 宗教とはそういうものだと俺は思っていた。

 当然そこには信者がいてお布施が集まり、教会はそれをもとに運営。

 今回のように何か事件が起こればいち早く駆けつけ、人道的支援に尽力する。


 それが教会なんじゃないだろうか?

 そう思う俺に、司祭は笑顔で答えた。


「いいえ、それは違いますよ。

 確かに女神様の教えを説くのは我々教会側の大切な役割でもあります。

 ですが、それを信じるのは聞いてくださった方の自由。

 それを押し付ける行為は良くないですし、教会も認めてはおりません。

 特にこの国は、国民に"自由"が約束されていますから」

「そうでしたね」

「はい」


 笑顔で言葉にする司祭に釣られ、頬を緩ませながら俺は答えた。

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