今更ながらに
通された部屋はひどく殺風景で、とても質素なテーブルと椅子、その上には素人でも安物だと分かるような、けれど品のいい花瓶に綺麗な花が活けられていた。
「それではみなさま、こちらでしばらくお待ちください」
レナーテは丁寧なお辞儀をしながら退室した。
テーブルに置かれた茶器もやはり高価なものじゃないようだ。
こういった教会は来賓に対して、煌びやかとはいかないまでも豪華なものでもてなすものだと勝手ながら思っていたが、どうやら建物の外観とはまったく違うみたいだな。
教会ってのは信者を集めて搾取する図式が浮かぶ。
お布施と称して大金を教会に収めなければ救われない。
そんな人道に反する連中がはびこってるイメージが強いんだよな。
俺の考えを見透かしたように、エルルはお茶を静かに飲みながら答えた。
「質素でも、品の良さがあれば、きっとそれで十分なのかもね。
お茶だって同じ茶葉を使っても、淹れ方を知らない人が用意したものと雲泥の差が出るじゃない?
材料を高品質にしなくても、工夫と努力で満足いく出来栄えになるんだね」
「おちゃ、おいしいね」
「わぅぅ……」
ブランシェには少し熱かったみたいだな。
舌を出しながら涙目でこちらを見る子にヒールをかけた。
こういう時、動物ってのは大変だよな。
どのくらい熱いのかも分からない場所に舌を伸ばすんだから怖いだろうし、何よりも熱かった時の衝撃は人間が体感するもの以上かもしれない。
そんなことを何となく考えていた時だった。
扉の向こうからノックが聞こえ、レナーテが司祭を連れて戻ってきた。
立ち上がろうとする俺たちに、とても人の良さそうな高齢の男性が話しかけた。
「どうぞ、おくつろぎください。
お呼びだてしたのにもかかわらずお待たせしてしまい、申し訳ございません」
「こちらこそマナポーションを使わせていただいて、申し訳なく思っています。
あれはとても貴重で高価なものだと聞いています。
それを人々のためとはいえ、提供してくれたあなた方教会に感謝をしています」
「それこそ私共の言葉です。
トーヤさんのお力がなければ、事態はもっと悪い方へと向かっていたでしょう。
ご挨拶が遅れましたが、この教会で司祭を務めておりますハンネスと申します」
対面に座った男性はおっとりと温かく、優しい口調で言葉を綴る。
心地良くも思える波長を出す彼に、俺は気になっていたことを訊ねた。
「教会におひとりで残られたと聞きました。
さぞお忙しかったことと思います」
「そんなことはありませんよ。
あんな事件があったのですから、私だけ何もしないわけにはいきません。
幸い、教会を利用される方も少なかったようで、私ひとりでも乗り切れました」
笑顔で答える司祭だが、現実は相当大変だったのだろう。
この町には23万人もの町民が住まうと聞いた。
大きめの怪我や重めの風邪で、教会に助けや救いを求めに来る人は多いはず。
それを半日とはいえ、たったひとりで教会に待機し続けたんだから、その疲労感が顔に出るのも当然だろう。
それだけの事態だったんだと、ようやく実感できた気がする。




