十分理解してる
静かになった店内で、俺は魔法を客全員にかけた。
体に異常が出てから間もないせいか、それとも微弱な毒なのかはわからないが、これでひとまず店内は落ち着いたと思っていいだろう。
俺の安堵した表情を読み取ったのか、客のひとりが話しかけてきた。
「……もう、大丈夫……なのか?」
「毒は抜けたように見えるが、本音を言えばわからない。
しばらくは安静にした方がいいのかもしれないな」
「彼は大丈夫なの?」
「今は静かに寝息を立てているところを見ると、安心していいと思う。
かなり強い痛みを感じでいたみたいだし、俺はそういった専門的な知識はないから詳細が分かるような人がいれば助かるんだが」
残念ながらこの世界に医者と呼ばれるような存在はいない。
いるのは薬草から薬を調合する薬師のみになると聞いている。
薄情なことを言えば、ここから先はもう俺にできることはないだろうな。
「さて、全員の治療が済んだところで、原因究明だな」
「……んぁ!? 俺たちにキュアは必要ないってのか!?」
「そう言っているつもりだ。
当然、犯人じゃないのは十分理解してる」
目を丸くした店主と若い女性店員。
女性の方は精神的に随分と参っているようにも見えた。
恐らく彼女は店主の娘だな。
どことなく似ているし、客と店の両方を心配しているんだろう。
暗い表情をしているところから察すると、食中毒かそれに近いものだと思っているのかもしれない。
ここが異世界だろうと、そういった問題は料理店にとって一番の厄介事だ。
それを出したとすれば客足は遠のき、営業すらままならない死活問題になる。
気が気じゃないのも当然だろうが、問題はまだ解決したわけじゃない。
それもすべて理解した上で、どうすればいいのかを考え続けているんだろうな。
店内全体が冷静になったところで周囲を確認する。
客に出された料理すべてに毒が混入されているようだ。
つまり調理時には、すでに入っていたことになる。
ジュースやワインと思われるものに毒の気配はない。
俺たちのテーブルに置かれた季節のサラダにも含まれていた。
そして店主の男性と店員である女性に毒の影響はなく、ふたりは無関係だ。
……これでいちばん可能性の高いものが、おぼろげながら見えてきた。
「店主、悪いが厨房を見させてもらうぞ」
「……え? あぁ、そりゃかまわないが……」
俺たちに続き、店主と店員、それと元気そうな客達4名が続く。
理由もわからず一服盛られたんだ。
原因を知りたいと思うのも普通だろうな。
倒れこんだ男性と、彼を心配した女性は先ほどの場所で待っているようだ。
そりゃ男性が心配なら置き去りにして付いてきたりもしないよな。




