回避できないと
しかし俺も本気で臭み取りをしていないし、味付けもある程度適当に済ませた。
本格的なジビエ料理を出してしまうと、その後の影響が計り知れないからだ。
恐らく驚愕されるような上質な料理を作るだけでは済まず、たちまちバルヒェット周辺の町々に有名料理人として話題になってしまうだろう。
そうなれば、色々と問題が出てくることは想像にかたくない。
まともに町を歩けなくなるかもしれないなんて極論すら考えてしまった俺には、手抜き料理と言えるようなものを出すことでしか回避できないと思えた。
……まぁ、それでも美味いと喜んでくれるならいいんだが。
わんこも顔をしかめる料理を作り出した男と乗客から言われた御者のティモは、どこか申し訳なさそうに自分の作った料理を食べていたが、貴重と言える旅での食材を無駄にしてしまった以上、そのことに誰も触れることはなかった。
強持て護衛冒険者のギレスとクレンクは、俺達でもあれよりまともなものを作れる自信があると、白い目でティモをじとりと見ながら言葉にした。
隣町まで6日で行ける距離だし、西側には大きな林もある。
少し立ち寄るだけで数名分の食材なら手に入れることができるだろう。
危機的状況ではないにしても、旅先での食材ロスに文句のひとつでも言いたくなる気持ちもわからなくはなかった。
彼らはデルプフェルトを中心に活躍するランクC冒険者で、メンバーの足りなさから魔物が弱い周辺の護衛任務を頻繁に請け負っているそうだ。
「顔、怖ぇからな、俺達」
「募集してもツラ見たら、みんなびびっちまうんだよな!」
笑いながらふたりは話していたが、その背中からは哀愁が漂っていた。
……いるんだよな、見た目ですべてを判断するやつが。
第一印象で思い込むのも仕方ないが、少しでも話をすればどういう人かはすぐに分かるんだがな……。
彼らは護衛依頼を受けるにはランクこそ低めのCだが、その身にまとった気配はディートリヒ達を連想する安定感があった。
恐らくはギルドからも信頼されている熟練者なんだろうと思えるほどに。
最近、凄惨な事件が起きているからな。
護衛依頼に関してはギルド側も未だ神経質になってるらしい。
御者1名、護衛2名、乗客5名で俺達はバルヒェットを目指す。
例の事件の影響で、現在は町を出ようなんて人も少ないらしい。
いつもなら馬車をもう1台連れることも珍しくはないそうだ。
そんなところから御者も限られているのかもしれない。
ティモは本来、事務仕事を専門に扱っていると話していた。
料理が苦手なら作る前に言って欲しかった。
そんな空気が全員から感じられたのは、もう済んだ話だな。
俺が出した料理ですべてを正常に戻せたような気がした。
控えめで作った手抜きだが、それでもそこいらの定食屋で食べる料理よりはずっと美味いそうだ。
手加減なんてしたこともないし、ちまたの食事をそれほど取っていない。
この辺りも勉強する必要が出てきたのかもしれないな。
「ウチのダンナにもトーヤちゃんのご飯を食べさせてあげたいよ。
いっそ無理してでも連れてくれば良かったかねぇ」
「その気持ちは嬉しいが、馬車の揺れに足の怪我がさわるぞ。
高熱が出るかもしれないし、さすがに可哀想だと思うんだが」
「ほんと、タイミング悪いわよねぇ。
酔って階段を転げるとか、笑いしか出てこないわよ。
ま、ウチの子への手土産話に丁度いいわね!」
本気で笑う妻を見て、旦那はどう思うんだろうか。
いや、馬車乗り場で話していた姿を考えれば、お互い笑い合う間柄か。
そんなことを考えながら、俺は作った料理に手を伸ばした。




