異世界共通
「こちらがふたり部屋となります。
何かご入用の際は、お手数ですが受付までお越し下さい」
「ありがとう、そうさせてもらうよ」
「それではごゆっくりご滞在下さい」
丁寧にお辞儀をしてその場を去るカミラだった。
早速部屋の中を見回しているエルルだが、それは子供でなくともするだろうな。
ベッドに座って柔らかさを確かめるのも、どうやら異世界でも共通のようだ。
今回頼んだ部屋は二人部屋、つまりベッドがふたつの部屋になる。
フラヴィは俺と一緒がいいらしいのでベッドはひとつ減ったんだが、思えばこの子が生まれてからずっと一緒に寝ているな。
料金は格安の8000ベルツ。
素泊まりでこの部屋、この値段は中々だと思う。
先ほど案内される前に聞いたが、どうやらこの宿は食事の持ち込みOKらしい。
裏庭に簡易かまどやテーブル、井戸などが設置されているので、バーベキューのような楽しみ方ができるのをウリにしている宿だそうだ。
以前は食事も用意していたが、客から"仄暗い井戸の底から這い出た料理"を出すと評判になり、それ以降は提供しなくなったとカミラはどこか残念そうに話した。
どうやら彼女の料理スキルは絶望的のようで、どことなくラーラを連想した。
室内での飲食も可能だが、調理はご遠慮下さいと笑顔で言われたことに驚いた。
恐らくは彼女なりのジョークだったのだろうと、俺は深く追求しなかった。
さすがに借りた部屋の中で煮炊きをするやつがいるとも思えないしな。
窓側のベッドに横になってまったりするエルルに微笑ましく思いながら話した。
「さて、食事はどうする?
でき上がってる料理ならここでも食べられるが」
「そんなの寂しいよ!
せっかくだし、裏庭に行ってみよ?」
がばっと鋭く起き上がったエルルは提案した。
確かに外は暖かいし、天気もいい。
簡易とはいえかまどがあれば美味しい食事を作れるし、外で食べるのも楽しい。
問題は、はらぺこわんこが空腹に耐えられるのか心配だが、ちらりと見た感じでは大丈夫そうだな。
「それじゃ、外で何か作るか」
「わーい!」
「わふっわふわふっ」
「うん、そうだね。
ふらびいも、おなかすいた」
笑顔の3人を連れて、俺達は裏庭へ向かった。
途中カミラに会ったので念のため施設の利用を話すと、快く許可をもらえた。
食材のみになるが、野菜や肉などはある程度用意しているので、必要に応じて購入できるようだ。
宿泊施設でこういったサービスはあまり行われていないと学んでる。
大抵は料理や酒を出す施設が館内に造られていることがほとんどで、そういったことをしていない素泊まり専門の宿では食材の提供もなければ、そういった調理するスペースが備えられていることもあまり聞かないらしい。
まぁ、腹が減ったらどこかに食べに行けばいいだけだし、それほどこういった施設は必要とされないんだろうな。
例外として、魔物の宿泊を認めている施設の多くがこういった場所を提供していると、前衛的な料理を作り出すと思われる彼女は教えてくれた。
その理由は深く考えなくとも理解できることだった。
魔物は主人の言うことしか聞かないのだろう。
人と同じ場所で飲食をすれば、トラブルの火種になる。
まぁ、そんなところだろうな。
裏庭は思っていた以上に広く、光が多く差し込むように上手く周りの家が避けている造りになっていた。
さすがに偶然だろうけど、こういった場所なら楽しく食事ができそうだな。
最近、凝った料理ばかりを出していたが、こんな場所ならやっぱりアレだよな。
火種になる魔導具と炭、長めの鉄製の串と食材をインベントリから取り出す。
ソースは何にしようか。
せっかくだし、何か個性的なものも作りたいな。
子供達視線を向けると、何ができ上がるのか楽しみな様子で見つめていた。
豪快にお腹を鳴らしている子もいるから、まずは手早く下準備を済ませるか。




