痛いほどわかるがな
「ねぇな」
「そうか」
はっきりと真顔で答えられたが、それも仕方のないことだ。
そもそも子供用の防具なんて必要性すらないんだ。
「まぁ、金持ちが我が子可愛さにって場合もあるらしいが、それも全部特注品で俺んとこみたいな防具屋には回ってこねぇ仕事だろうな。
そのツラならあえて言うことでもねぇだろうが、そもそも子供を危険な場所に連れ出すことすら普通はねぇし、あっても乗合馬車での移動に防具を用意しようなんて親もいねぇだろ」
「わかってはいたんだが、ダメ元で特注品でもと思ったんだ」
「その場合は作れなくもねぇが、こっちも通常営業の片手間ですることになる。
時間がかかりすぎるし、何よりも値段が笑えねぇくらい高くなるだろうな」
魔物や動物の皮から作る鎧も、そう簡単に子供用のサイズへ手直しできない。
なめした革を上手く使ったとしても、必ず無駄になる部分が出てくる。
そういった特注品を作るにも専門の技術が必要になるし、何よりも一般的な武具屋でそういったサービスは受けていない。
様々な理由から、子供用の防具は販売すらしてないようだ。
それはここ、武具専門店でも無理だと言われた。
この店は修理もしっかりとしてくれて、客に合った武具を調整してくれると評判の冒険者御用達の武具屋だ。
色黒の筋肉質で強持ての主人リーンハルトは言葉遣いこそ荒いが、しっかりと丁寧な仕事を心がけていると評判で、彼はある程度オリジナルの武具を作ってくれることでも有名だが、残念ながら子供サイズの防具ともなれば話は別のようだ。
それも当然だろう。
彼の言うように、この世界でなくとも子供に戦わせようだなんて親はいない。
そういったことはしっかりと経験を積ませ、大人となった年齢でようやく認められるものだし、その観点から考えてもエルルですら5年は早いと言われるのがこの世界の常識だ。
エルル自身が強くなることを約束した時、ローベルトやエトヴィンが口を挟まずに聞いていたのもあくまでも自衛目的のため、それはつまり、旅をするにあたって自衛すらできなければ危険だと判断してのことだ。
幼いエルルを本格的に戦いへ参加させると知れば、ふたりは止めていただろう。
俺だってそうだ。
あくまでも自衛目的以上のことをこの子にさせるつもりはなかった。
技術を手にしてしまったフラヴィも同様に最前線で活躍させる気はない。
ブランシェを含め、この子達はまだまだ子供だ。
最前線で戦うのは俺だけで、もしもに備えての護身術を学ばせるつもりだった。
だからといって防具をつけなくてもいいとはならないから連れてきたわけだが。
「……ま、あんちゃんの気持ちも痛いほどわかるがな。
俺にも8歳になる娘がいるし、外に連れ出そうってんなら心配にもならぁな」
「もしものことを考えると、どうしてもな……」
「愛されてんなぁ、嬢ちゃんたちは」
豪快に笑うリーンハルトだった。
「残念だが、防具は諦めるよ」
「まぁ待てよ、あんちゃん」
踵を返そうとする俺を、彼は引き止めた。
何か代わりになる防具があるとも思えないが……。
「そんな心根の優しいあんちゃんに、俺からひとつ情報をやろう。
魔導具の中にはサイズフリーの防具があるって話を聞いたことがある。
なんでもそいつは装備者の体系に関係なく付けられるってすげぇ防具でな、迷宮都市にはそんなもんが眠ってるって噂されてる」
「……装備者の体系に関係なく付けられる魔導具……」
「眉唾な話でも迷宮都市って場所が信憑性を高めちまう。
恐らくはアーティファクトだろうから相当深くダンジョンに潜らなきゃならんだろうが、そいつならあんちゃんの希望に適ったもんになるんじゃないか?
まぁ、曖昧っちゃ曖昧な情報なんだが、探してみる価値はあるかもしれねぇぞ」
アーティファクト。
この世界の神々が創ったとも言われる、人知を超えたアイテムか。
強力な媒体も必要だし、どの道迷宮都市には俺も用事がある。
「いい話が聞けた、ありがとう」
「いいってことよ!」
気持ちのいい笑顔で答えるリーンハルトに感謝をしつつ、俺達は店を後にした。




