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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第七章 後悔をしないように
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風のように

 心なしか、足取りから音符が出ているようにも思えるブランシェ。

 その楽しそうな横顔から、よほどチョーカーがお気に入りなんだろうことは想像にかたくないが、安価な商品なので若干の申し訳なさも感じてしまう。


 何か他にも買ってあげたいと思う一方で、それほど商品が充実していない以上、この町では諦めてもらうしかないんだろうか。

 そのぶん何か美味しいものをあげた方がこの子は喜びそうだが、町の中では俺が作った食事を用意する場所も限られる。


 宿屋の部屋で食べてもいいか聞いてみるか?

 いや、さすがにそれは非常識だと思われるか。

 いざとなれば食事だけ町の外にでも向かうか?


 ブランシェが喜びそうなことを考えながら歩き、俺はある店の前で足を止めた。


「何かのお店?」

「ここは魔導具を専門に扱ってる店だ。

 フラヴィは一度来ているが、憶えてるか?」

「うんっ、ふらびい、だっこしてもらった」


 どうやらいい思い出として残っているようで安心した。

 まぁ、色々と説明をしなきゃいけないんだが、きっと大丈夫だろう。


 扉に手をかけ、少しだけ開いた瞬間に違和感を覚えた。


 ドアベルの音がしない?

 アラーム効果もあるって言ってたのに外したのか?

 さすがに無用心だぞ。


 一抹の不安を感じつつも俺は扉を開けた。

 そのまま店内に入ることもできずに呆然と立ち尽くしていると、横から覗いたエルルが言葉にした。


「……お店?」

「……の、はずなんだが……」


 がらんとした間取りだけの空間。

 人の気配すら感じられない店内に、思考が凍りつく。


「……カウンターも商品も、すべてなくなってるな……」

「誰もいないみたいね」


 狐につままれるとは、こういう時に使う言葉だろうか。

 ダイニングやキッチンを覗いてみたが、何も置かれていなかった。


 ……何かのトラブルか?


 いや、あの人に限って……。

 ……否定しきれない俺がいるな……。


 数日借りていた部屋に入ると、部屋の真ん中に何か置かれていた。


「……手紙、かしら?」

「どうやらそのようだな」


 白い封筒に入れられた手紙と思われるものを確認する。

 一枚の大きな紙が4つ折りになって入っていた。


「うわっ! すごい太い字!

 ……なになに……『迷宮都市で待つ』

 …………トーヤ、いったい何したの?」

「……いや、何もしてないぞ……」

「……でもこれ、"果たし状"ってやつじゃない?」


 そうじゃないと思いたい。

 そんな言葉すら自信を持って外に出ることはなかった。


 …………なんだ?

 俺は迷宮都市で、ラーラさんに襲われるのか?



 店の隣に住んでいる女性に詳細を訊ねると、少し前に魔導具店を閉めたらしい。

 詳細は聞いてないが満面の笑みで『お世話になりました! お引越しします!』と告げた彼女は、馬車いっぱいに荷物を積んで風のように去っていったそうだ。

 あまりにも突然なことに目を丸くしたまま固まって、詳細を訊ねる前に去ってしまったと女性は教えてくれた。


 時期を考えると、どうやら俺がブランディーヌと逢っていたころのようだ。


 まぁ、あの人のことだ。

 気まぐれで店を移転しただけかもしれないな。


 当てが外れた俺は、子供達を連れて防具屋へ足を進める。

 とはいえ、その足取りは重いと言わざるをえない。

 子供用の防具が売っているとは、とても思えないからだ。


 せめて革鎧や胸当てくらいはあるといいんだが……。

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