十分すぎるほどの
……あれからどのくらいの時間が経ったのだろうか。
そう思えてしまうほど時の流れを俺は感じていた。
2階に連れてこられてすぐ店主が歌い踊りながらフラヴィとエルルの服を何度も着せ替えられた時にはどうしようかと本気で思ったが、それもようやく落ち着いてくれたようだ。
まさかこんな場所で夢の国で見られそうな質のいいミュージカルを鑑賞することになるとは思ってもみなかったが、それでもこの子達が可愛くコーデされていくのを見るのは中々に面白かった。
……まぁ、ふたりは相当ぐったりしてるんだけどな……。
フラヴィは白を基調としたワンピースに落ち着いた。
スカート丈は長めで女の子らしさを出しつつ、足元はごわつかずに移動しやすさを優先、けれど何よりも上品さを重視した見た目に加え、ケープで防寒も十分。
少女らしく胸元のリボンと、白の羽根つきベレー帽が可愛さと清楚さをプラス。
まるで深窓の令嬢を連想させるような、どこに出しても自慢ができるほどの清楚なお嬢様に見えた。
「大きくなったらすぐ変えていただけるよう、ブーツも安価な革を使っています。
そのぶん強度は落ちますが、サンダルなどよりはずっと丈夫です」
エルルは上品なフリルをあしらった白のブラウスに濃い桃色のロングスカート、白のアネモネの造花がついたカチューシャに革のブーツだ。
ふたりとも髪の色は違えど、白がとても良く似合う。
「わたくし、お嬢様を美しく着飾ることを至上の喜びとしておりますの」
「……そ、そうか……」
瞳を怪しく光らせながら真顔で言われると、かなり怖い言葉に聞こえるんだと知った瞬間だった。
それとは別に防寒着としてコートのように着られるローブを何着か購入した。
雨着もここではしっかりとしたものを販売しているようで、これまで見せてもらった商品のほとんどは売り上げ度外視のかなり質のいいものばかりだった。
とはいえ、十分すぎるほどの衣類は手に入った。
ついでに少し大きめの服とブーツも購入したので、フラヴィが急成長した時にも対応できるだろう。
念のため、大人の女性用ローブも何着か用意してもらった。
正直、ナイフで強引にサイズを合わせるだけの服を着せるのは可哀想だからな。
ここまでで見積もりを出してもらったが、思っていた以上の出費にはなっていなかった。
……いや、日本の子供服が高いだけなのかもしれないが……。
せっかく質のいい店に来てるので、あと何着か用意してもらうことにしたが、どこか申し訳なさそうにエルルは言葉にした。
「これだけ素敵なのを買ってもらっちゃったし、もう大丈夫だよ?」
「そうもいかないだろ。
気にしないで可愛いと思ったのを持ってくるといい。
次はいつ買えるかわからないんだから、今のうちに探すといいぞ」
そう伝えても、しばらくは踏ん切りがつかなかったようだ。
だが、着替えも必要になるかもしれない。
いくら乾燥させたり洗濯する魔法を持っていても、たまには違う服を着たくなるもんだろ。
それに俺みたいな魔導具とは違って普通の服なんだ。
戦闘に耐えられるような頑丈なものでもないし、着替えられる服はあればあるだけいい。
散々悩んでいたが、気にしないでいいともう一度話すと納得してくれたようだ。
清楚なワンピース数着とニーソックス、それと下着類を数枚購入した。
寝巻きも買おうとしたが、エルルはいらないと答えた。
この子なりに気を使ったこともあるが、魔法で常に綺麗な状態を保てるのでそれほど気にならないというのが本音のようだ。
確かにこの世界の魔法は群を抜いて便利なものがある。
生活魔法に分類されるドライとクリーン、ウォッシュの魔法だけでも日本に持ち帰りたいもんだと本気で思えるほどだ。
どういった法則で世界を移動できるのかはわからないが、その方法を探してみる価値は十分あるな。




