歩く広告塔
シェーネフラウ。
直訳すれば"美しい人"になるだろうか。
メインの大通りではないが、中々活気のある通りの中央寄りにその店はあった。
3階建ての大きな建物いっぱいを使って女性服を専門に扱っていると、彼女は教えてくれた。
それも驚くべきことに服屋を示す看板の下には狼の絵が書かれていた。
どうやらブランシェも一緒に入ることができる店を教えてもらっていたのを今更ながらに知り、心の中で感謝をする。
そういった細やかな気配りができる大人の女性なのだろう。
目を見開きながら建物を見上げるこの子達も、想像していた以上の大きさに驚いているようにも見えた。
しかし、まずはふたりの服を調達する必要がある。
いつまでも粗末なサンダルじゃ危ないし、ローブだけでも可哀想だ。
重厚な扉に手をかけるも、思っていたよりも軽い造りに面を食らう。
女性でも軽々と開けられるように細工が施されているんだろうか。
店内は隅々まで明るく光が入り込むような造りになっていた。
掃除もしっかりと行き届いた清潔感のある店のようだが、扱っているものを考えればそれも当然か。
昼過ぎともなれば、多くの女性で賑わう店なのだろう。
入店した瞬間に視線がこちらへ集まる気配を感じた。
男性も気兼ねすることなく入れる店とは聞いているが、それほど訪れることはないのかもしれない。
様々な好奇の瞳をこちらに向けているようだ。
悪意はないが、それでもやはりこういった店は女性連れで入っても中々敷居の高い店であることは変らないが。
1階は靴やバッグ、生活雑貨の類が置かれているようだ。
ここでならきっとこの子達に必要なものも買えるかもしれない。
そんなことを考えている時だった。
「いらっしゃいませ~!
シェーネフラウへようこそ~!」
1階右隅のカウンターからひょっこり顔を覗かせた20代半ばの女性。
美しい白金の髪を真っ直ぐ伸ばし、腰辺りで丁寧に結いながらリボンで綺麗にまとめていた。
少し小さめの眼鏡が可愛らしくも思え、扱っている服の中でも相当質のいいものを身に纏っているが、下卑たコーデは微塵もない。
小物にも視線がいくように考えられていながらも、そのすべてを上品に感じさせる不思議な魅力を彼女は持っているようだ。
優しく輝く金色の瞳をこちらに向ける彼女自身が歩く広告塔なのだろう。
そういったことを思わせる姿に、かなりやり手の店主だと感じられた。
だが……。
「わぉ! 可愛い女の子がふたりも!
お姉さん嬉しくて踊りたくなっちゃう!」
手のひらを右頬の横で合わせながらうっとりとこちらを、いや、フラヴィとエルルを見つめる熱い視線。
……やはり相当変っている店主がこの町には多いらしい。
「この子達の服を一式揃えたい。
可能なら雨着や厚手の服、それに靴や必要になる生活雑貨も欲しいんだが」
「かしこまりました、旦那様。
お嬢様方のお召し物はお2階になりますので、ご案内致します」
うやうやしくお辞儀をする彼女に思うところがないわけではないが、ここはそういう店なんだろうと割り切った。
ここ以外で当てはないし、ここ以上に揃っている店もないはずだ。
あまり深く考えない方が精神的にいいような気がしてきた。




