一枚の便箋
「これをギルドの受付に出すとよい。
貴族の件をギルドマスターに伝え、目立つことなく話を通すことができるわい」
「ありがとうございます」
手渡された一枚の便箋。
ここに例の貴族家が関わる指輪についての詳細が記され、必要以上に注目されることなく情報が聞けるようになるそうだ。
「こうでもしなきゃ相当目立つからな。
下手をすれば闇組織に狙われかねないってことも留意すべきだぞ。
どこに誰がいるかわからんって気持ちで動いた方がいい」
「あぁ、そうさせてもらうよ」
「バルヒェット冒険者ギルドマスターは話のわかる人物じゃ。
頭ごなしに否定したりもせんから安心するといいわい」
偶然ではあるが、隣町の冒険者ギルドマスターとは昔なじみだと彼は続けた。
元々冒険者としての繋がりもあるが、それ以前に彼の奥さんの親友らしい。
「それじゃ、そろそろ行くか」
「そうだな。
色々とありがとうございました」
「いや、こちらこそ情報提供に感謝じゃよ」
胸を枕に寝ていたフラヴィの頭をなでて起こし、抱き上げたまま立ち上がる。
エルルはずっと起きていたが、難しい話が続いたので舟を漕いでいるようだ。
はっと目が覚めたように瞳に覇気が戻るのを確認してからブランシェに視線を向けるも、この子は完全に熟睡していた。
やはり、この子は大物の器だと再認識するも、あまり熟睡しすぎることに注意をするべきか、それともその状態でも危険を察知できるのかを考えるが、ここで言うべきことではないかと判断した。
「……このまま戻るとこの子の服が買えないな。
フラヴィ、また人の姿になってもらえるか?」
「きゅっ!」
ぽんと軽やかな音を部屋に響かせ、人の姿に戻るフラヴィ。
中々衝撃的な現象に戸惑う二人を横目にローブを着せた。
「……何度見ても信じられんな……」
「ホッホ。
世界にはまだまだ不思議なことがいっぱいじゃのぅ」
ふと横目にエルルが映るも、この子は驚いている様子はなかった。
しかし、何かをしきりに考えているように見えた。
「どうした?」
「ねぇ、トーヤ」
「なんだ?」
「あたしも魔物の姿になれるかなっ!?」
じっとフラヴィを見ていた視線をこちらに向ける。
そのきらっきらした瞳に眩しさすら感じるが、その可能性は否定したいな。
「もしエルルが魔物なら、それこそ家も家族も見つからない可能性が出てくるぞ」
「……ぅ」
フラヴィが特殊なのか、それとも高位の魔物であれば変身できるのか俺には分からないが、少なくともそう簡単に身体を変化できるとも思えない。
それにエルルが変身できるなら、本当に家や家族が見つからないかもしれない。
「魔物になれない方がいいんじゃないか?」
「そうだね……ざんねん……すごくざんねんだけど……あきらめる……」
しょぼくれるエルルを見ていた寝ぼけ眼のブランシェは、大きくあくびをしながら体を伸ばした。
どうやらこっちはまったくブレることはないらしい。
安心していいのかはわからないが、まぁ敵のいない場所でならのんびりするのもいいだろうな。
この子達はまだ子供だし、無理をして気を張り続けさせる必要もないか。




