身を護れる強さが
簡易テーブルと椅子をしまい、元冒険者達の足縄を解く。
さすがに手縄は外せないぞと伝えるも、覇気のある瞳でかまわないと答えた。
あとはエルルのことだが、憲兵に預ける旨を話すと悲しい顔をされてしまった。
「罪人じゃないんだから、心配しなくても大丈夫だ」
「…………うん」
歯切れが悪いな。
何か思い出したんだろうか。
「住んでる場所とか、家族の名前を思い出したか?」
「……ううん……まったく憶えてない」
「そうか」
「……ただ……北の方に……行かないといけない……気がする……」
「また漠然としているな」
北、か。
ちょうど迷宮都市が北にあるが、さすがにまずいだろうな。
これから先のことを考えていると、はっきりとした口調でエルルは言葉にした。
「トーヤ、あたしも連れてって」
「連れてく? どこにだ?」
「……北……の、方?」
いや、そこは首をかしげられると困るんだが……。
明確な目的地のない自由な旅といっても、ただ漠然と北に少女を連れて行くとなれば色々と問題が出てくる。
記憶が曖昧な子を連れていけるほど、この世界は優しくもないんだ。
「こいつらみたいに話のわかる連中だけじゃないんだぞ?
旅に出るってことは、それなりに戦えなきゃ危ないんだ。
最低でも自分の身を護れる強さがなければ連れていけない」
「つ、強さならある! ……かもしれない……」
曖昧な表現をする彼女は両方の手のひらを見つめ、力を込める。
静かな魔力の流れを一点に集中し、誰もいない方向へ右手を前に出して力を解放した。
「フレイムアロー!!」
直線状に鋭く進む炎の矢。
それはあの馬鹿盗賊の頭が使った岩石以上の練度を高めたものだった。
ある程度魔法を飛ばすと、手のひらを握り締めて矢を消失させた。
どうやらこの子は、魔法のコントロールがしっかりとできているらしい。
なぜエルルがこれほどの魔法をと冷静に考えていると、驚愕した男が呟いた。
「……あ、ありえない……こんな少女が……」
「今の魔法に詳しいのか?」
「……この子が今使った魔法は、中級攻撃魔法だ。
幼いと言えるような少女が使える強さを遙かに凌駕している……」
そういうものなのか。
確かに練度は高いし、火ではなくあれはさらに強さを感じる炎だった。
「どう!? これでも自分の身が護れないって言う!?」
「自信過剰は身を滅ぼすぞ。
今の魔法ひとつで強さは計れない。
魔法の才能がある、という程度で身を護れるとは言えない。
それ以前に、記憶をなくした子供を連れ歩くことはできないだろ?」
「…………それ、は……そうだろうけど……」
「どうして俺たちと一緒に行きたいと思ったんだ?
まさかとは思うが、美味い飯目当てとかじゃないだろうな?」
「それは違う!
あ、いや、あのお料理には未練があるけど……そうじゃなくて!」
ころころと表情を変えるエルルだが、理由もなく旅には連れていけない。
そもそも憲兵になんて報告すればいいのかすら俺には分からないしな。
「――あ! そうだ! そうだった!」
「何か思い出したのか?」
「うん! 私!
この世界の女神なの!」
少女の発したその言葉に、フラヴィとブランシェ以外の全員が凍りついたのは言うまでもない。




