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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第六章 僭称するもの
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大きくなろうな

 大きな戦利品をずるずるしながら戻ると、ふたりは笑顔で迎えてくれた。

 何事もなかったようで安心するが、少女はまだ目が覚めていなかったようだ。


「問題なさそうだな」

「わふっわふっ」

「ぱーぱ、おかえりなさい」

「ただいま、ふたりとも」


 そのままフラヴィには歩いてもらい、少女を乗せたブランシェを横に歩かせる。

 そう遠くないとはいえ、どこに魔物がいるかもわからない。

 周囲に警戒を張り巡らせるも、動物一匹いないようだ。


 もちろん、それで安心できる世界じゃない。

 いざとなれば、ローブの男を捨ててでも戦わなければならないか。



   *  *   



 男を引きずりながら野盗どもを回収しに戻ると、面白い状況を目撃する。

 可愛らしいウサギ2匹とじゃれあう男、いや、おっさんふたり。

 そんな微笑ましい姿を見ながら、驚いた表情で俺は言葉にした。


「……こいつはすごい。

 人間、手足を縛られても何とかなるもんなんだな」


 片方のウサギはガチガチと音を鳴らし噛み砕こうと口を寄せ、もう一匹は額についた特有の角で刺そうと首をぐりぐりと動かす。

 野盗ふたりは器用に両足を額に押し付け、攻撃から必死で身を護っていた。


「何とかならんから助けろ! いや助けて下さいッ!!」

「もう無理! 死ぬ! 死んじゃいますッ!!」

「あぁ!? やめ! やめろぉぉ!!」


 魔物とはいえ、最弱とも噂されるホーンラビットだ。

 そのくらい手足を縛られても何とかなるだろうと思えるが、このまま喰われても寝覚めが悪い。

 一振り同時にウサギを切り払うと、荒い呼吸を整えながら男達は答えた。


「……ぜぇっぜぇっ!

 ……ま、まさか、トシュテンのダンナを倒したのか……」

「倒したから、今こうしているんだろ?」

「……その人、かなり強い魔法の使い手だぞ……」

「こいつが得意なのは魔法だけじゃない。

 しっかりと肉体を鍛えているから、お前らじゃ素手のこいつにも勝てないぞ」


 男の動機も戦った俺にはおおよそ掴めている。

 こいつが何を狙い、どうしようとしていたのかも。

 詳細は聞かなければわからないが、それでもこいつにはそうするだけの動機があったのも間違いないだろうな。


 だからといって褒められることじゃない。

 それでも、俺にはそれを咎める資格もない。

 憲兵に引き渡すが、それ以上のことをする必要もないだろう。


 目が覚めて暴れるなら話は別だが。


「さて、と。

 それじゃあこっちはご飯にしようか」

「わぅ! わぅわぅわぅ!」

「そうだね。

 ぶらんしぇ、がんばったから、おなかすいたよね」

「わふっ」

「そうだったな。

 ありがとうな、ブランシェ。

 軽くてもフラヴィを乗せての移動はいい運動だったよな。

 でもこれから町に向かうから、お腹いっぱい食べるのはやめような?」

「わ! ……ふぅ……」


 目に見えて落胆するこの子には悪いが、お腹がぽっこりじゃ移動もできない。

 まるでこの世の終わりのような悲しい姿に思うところがないわけじゃないが、それでも優先順位が少々変わった以上、こいつらを先にどうにかしないといけない。


 とはいえ、さすがに俺も腹が減った。

 相手は中々な強さだったし、久しぶりにいい運動になった。

 手加減具合も勉強になったから、次はもっと上手く攻撃できるだろう。


 簡易テーブルと椅子をふたつ出し、その上に皿と料理を盛る。

 即席の食卓とはとても思えない豪華な料理が並ぶ。


 今日はデミグラスハンバーグに半熟とろとろ卵を乗せたものだ。

 付け合せはライスと素材を活かした塩を抑え目のオニオンスープ。

 サラダは茹でたじゃがいも、やさやいんげん、トマト、オリーブ、ゆで卵をフレンチドレッシングで和えた"サラド・ニソワーズ"だ。

 デザートには桃のコンポートを乗せた桃のゼリーを用意している。


 ブランシェには食べやすいようにロコモコ風で出した。

 スープは熱いのでなるべく冷ましてから飲むように注意をするも、我慢できなかったこの子はひと舐めしてヒールをかけることになる。

 でも味は美味しかったようで、がつがつと食べ始めた。


 また食後にウォッシュを使わないと盛大に口元が汚れてるだろうな。

 頬を緩ませながら俺はテーブルに戻り、味を確かめるように料理を口へと運ぶ。


 最近ようやく趣味に勤しめるようになったことで、まともなものが作れていた。

 バランスはそれほどいいものじゃないが、冒険中にあまり贅沢は言えないよな。

 それでも瞳を輝かせ、花が咲いたような笑顔を見せながら美味しそうに食べるこの子達を見ていると、作ってよかったと心から思えた。


 いっぱい食べて、いっぱい大きくなろうな。


 微笑ましくふたりの様子を見ながら食事をしていると、匂いに釣られたのか少女が目を覚ましたようだ。

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