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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第六章 僭称するもの
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抱え込んだんだ

 今まで感じたことのない衝撃が拳に伝わる。

 鏡を割ったような手応えと甲高い音が周囲に響いた。


「無詠唱の防御魔法か。

 腹をかすめた程度だな」

「ぐッ――!」


 バックステップをして距離を取り、腹の様子を左手で探る男。

 思っていた以上に優秀な魔法の使い手のようだ。


 だが、確実に爪痕は残せただろう?

 それを証明するかのように男の表情は歪む。


 俺がいま与えたのは"痛み"じゃない。

 そいつは"恐怖心"と呼ばれるものだ。

 直撃すればどうなるか、それをお前は理解した。


 なまじ頭がいいとそうなる。

 お前はそいつを抱え込んだんだよ。


「――の馬鹿力がッ!!

 腕力に頼った戦いで俺に勝てると思うなよ!!」


 腕を振り払いながら鋭い風の刃を連続で放つ。

 一発でも当たれば木ですら切断する恐ろしい魔法だが、すべて紙一重に見えるように涼しい顔で避け続けた。


 男の表情が驚きから怒りに変わる。

 放つ方向を変えながら攻撃し続けるが、一撃でも当たってやる気はない。


 そろそろ魔力が尽きるだろう。

 そう思っていると、魔法を放ちながらポーションを飲んだ。

 がぶがぶ飲めるほど、そいつは安価じゃないんだがな……。


「器用なやつだ」

「黙れ!!

 俺に近づけないお前にはそんな余裕すらないだろうが!!」

「人ひとりを思うように倒せない無能だからって、無抵抗な木に八つ当たりするなよ」

「――のッ!! 言わせておけば!!」


 挑発に乗ってきた男は強烈な魔法を発動する。

 まるで怒りを丸く固めたような球体の魔法に見えた。

 周囲ごと吹き飛ばそうとしているんだろう。


 だが隙だらけだ。

 それだけの力を込めるには時間が必要だ。

 冷静でいられるならこんな攻撃はしないはず。


 瞬時に男へ詰め寄り左手で脇腹を攻撃するも、防御魔法に阻まれる。

 今度は先ほどよりもかなり強固な魔法壁を張り巡らせたようだ。

 にやりとする男のツラにイラつくが、ガードは想定済みなんだよ。


 右足を一歩前に出し、本命の右拳を水月(みぞおち)へ叩き込んだ。

 男の体がくの字に折れ曲がり、膝をついて悶絶する。

 しかし、さすがに意識を刈り取るには弱すぎたようだ。


「加減が難しいな」

「――くそ、がッ!!」

「っと」


 魔力を込めて腕を払う男の攻撃を避けつつ、冷静に動作をうかがう。


「そこそこ強めに殴ったんだが、まだ元気なのか。

 普段から魔法だけじゃなく、体も鍛えてるんだな」


 飛び退いて距離を取った俺は男を素直に褒める。

 これは執念だが、努力に裏づけされた強さだ。

 それがどんな理由だとしても、積み重ねてきたものを否定はできない。

 ……あまり褒められない動機なんだろうけどな。


 魔法薬を飲み、回復して立ち上がった男はアイテムを地面に叩きつけた。

 周囲に大きく広がる黒い煙が、男の姿を完全に見失わせる。

 思わずニンジャかよと突っ込みそうになったが、なんとかこらえた。


「逃げるのか?」

「……俺の目的は半分達成されている。

 必要のない戦いを続けるほど、俺にも余裕がないからな」

「――遅い」


 懐に飛び込み、強烈な一撃を左脇腹へ放った。

 拳は魔法壁を軽々と貫通し、男の腹に突き刺さる。


「ごはッ!?

 ……ば、馬鹿な……。

 ……なぜ……見え……る……」


 何かを呟いた男に、俺は呆れながらも言い返した。


「馬鹿はお前だ。

 視界を遮った程度で安心しやがって。

 おまけになんだ、その安っぽい捨てゼリフは。

 寒すぎて周囲を凍りつかせる魔法かと思ったぞ。

 やすやすと敵を逃がすわけないだろうが。

 そんなことをするのは三流以下だ。

 ……って、聞いちゃいないか」


 地面をベッドにおねんねしてる男を縄で縛り、装備品を取り上げた。


 色々怪しい薬やらアイテムやらを持っていたが、すべて憲兵に渡すか。

 正直、これ以上の面倒事はごめんだしな。


「……ったく。

 鍛えた人間相手に手加減するのも難しいもんだな。

 いっそぶった斬れたら、ものすごく楽なんだが……」


 愚痴を言いながらも男をずるずると引きずり、ふたりの下へ戻った。

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