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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第六章 僭称するもの
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目的のためなら

 気を失った少女を腕に抱えながら、魔物と遭遇しない林を歩く。

 3歳児と思われる幼子を乗せた小さめの大型犬を連れて……。


 何とも言えないこんな姿を憲兵に見られたら、確実に職質されるだろうな。


 とはいえ、あのままこの子を放置するわけにもいかない。

 聞きたいこともあるし、魔物の歩く林にこんな小さな子を置き去りにもできない以上、デルプフェルトに連れて行かなければならない。


 ……こういった場合はどこに報告するんだろうか。

 憲兵にすべてを任せればいいんだろうか?


 そんなことを考えていると、ひとつの気配を感じた。


「……ぱーぱ、このかんじ……」

「……わぅ……」

「あぁ、ふたりが感じてる通りだよ」


 やはりこの子達はしっかりと気配を感じ取っている。

 これが不気味なものだということも。


 これも魔物の本能とも言える特性なんだろうな。

 とてもわずかに発せられたこの気配を察することができるのなら、魔物だけじゃなく動物の気配も感じ取れるはずだ。

 この件が終わったら、ふたりにもしっかりと気配察知を学ばせるか。



 さて、と。

 この手の類は恐らく悪党ではない。

 だがそれ以上に厄介だと俺には思えた。


 目的のためなら手段を選ばない断固たる決意が込められている。

 ためらいなく人を殺すどころか、目標のすべてを奪い去るだろう。

 ある種、暗殺者にも通ずるような不気味さと危険さを併せ持つ気配。


 闇に紛れ、気配なく対象を攻撃するタイプってのは少ないのか?

 ありがたいことに、そういった気配を感じさせない暗殺者なんてのは日本にいなかったし、こんな世界でもなければ存在すら疑わなかったが、まぁ、ここにはいるんだろうな。

 表舞台には出ない、陰に生きる本物の暗殺者みたいな連中が。


 だが、この先にいる男はそういったやつじゃない。

 己が使命に殉ずる、非常に強い覚悟を感じさせる濃密な気配。

 そう思わせるようなものを纏っていると俺には思えた。


 狡猾さを持ち、時には残忍さを出すこともいとわない。

 恐らくはそんな男だろうと思えてならなかった。



 この男の根底にあるものは何だ?

 金目的で動いているのか?


 ……いや、違うな。

 こいつはそんなやつじゃない。

 これまでの話から考え付いた推察だが、ほぼ間違いないだろうな。


 やはりこのまま進むのは上策じゃない。

 フラヴィをブランシェから降ろし、少女を背中に乗せる。


「重くないか? 

 このままある程度歩けるか、ブランシェ」

「わうっ」


 どうやら大丈夫そうだ。

 足先が地面についているが、贅沢は言えない。


 フラヴィにショートソードを渡し、ふたりへ明確な指示を出した。


「これから俺は問題の男を捕縛する。

 俺が戻ってくるまでふたりはここで待機してほしい。

 もし、魔物が出て俺がまだ戻れない場合、フラヴィに対処を任せたい。

 ブランシェは戦闘に加わらず、その子を振り落とさないように回避を優先。

 フラヴィは安全に敵の行動を見極めながら、確実な一撃を当て続けること。

 勝てないと少しでも判断したら、俺の方へ走って逃げるんだ」

「うん、わかった」

「わふっ」


 しっかりと俺の言葉に耳を傾けているが、正直なところ俺のいない場所で戦闘を任せるのは不安だ。

 フラヴィがいくら技術を体得していようが、この子はまだ実戦経験がゼロだ。

 言葉にはしていないが、もし魔物が襲ってきた場合、早急に男を倒して合流しなければ最悪なことにもなりかねない。


 周囲に魔物はいない。

 しかしいつ襲い掛かってくるかもわからない。

 盗賊のような無法者が大人数で歩いてくるかもしれない。


 不安は拭い去れないが、ふたりを信じ、俺はひとりで先に進んだ。

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