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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第六章 僭称するもの
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身を護る術

 子供の姿を取れるようになったフラヴィの体力に大きな変化は見られず、ブランシェとある程度遊んだだけで座り込み、肩から息をしていた。


 しかし魔物の時と同じく足はしっかりと大地を踏みしめ、そのほっそりとした体からは想像もつかないほどの俊敏さで移動する姿はかなり衝撃的な姿だった。

 人の姿でも違和感なく動けるのはいいことだが、関節稼動域がピングイーンの時よりも自由に動かせているようにも見えた。


 むしろペンギンの姿よりも脚力があるようにも思えるほどの速度で、特に横移動は素早く正確になっていて、自然と使っているサイドステップに安定感があることをしっかりと確認できたくらいだ。

 これまでのようにてくてくと歩いていなかったし、見た目3歳児がしっかりと走っていることそのものに強い違和感は覚えるが、これはこれでいい傾向のように思えた俺は、フラヴィに武器を持たせて振らせてみることにした。


 そこでようやく大きな違いを見つけることになるが、恐らくはこれも推察の域を出ることはないだろうな。


 初めて武器を持たせているはずのこの子は、ダガーを見事に扱ってみせた。

 続けてショートソードを振らせてみたが、結果は同じだ。


 フラヴィは、教えてすらいない剣術を体得していた。


 あの力と同じで、孵化させた時に俺の知識と技術が流れ込んだのかもしれない。

 それくらいしか思いつかない俺にとって、これは想像の範疇(はんちゅう)を大きく逸脱する現象ではあったが、魔物であることやあの力を使ったという点などを考慮すれば、正直なところそれほど予期せぬ事態とも言えなかった。


 これだけの技術を学ぶとなれば、数年では済まない時間が必要になる。

 それを一瞬のうちに覚えていることそのものが問題と言えば問題なんだが、あの時ほどの強烈な衝撃は襲いかからなかった。


 この子が使う剣術は、俺が道場で学んでいたものと同じ流派で、基礎的なものからかなりの応用までを体現できるほどの技術を身につけていた。

 頭の中でも知識として理解できている答えが自然と返ってくる姿に戸惑いを隠せないが、これについてもこんな世界なんだから、悪い話ではない。


 何よりもこの子自身を護る術を手にできた。

 その想いが俺には強く、なぜそうなったのかはそれほど気にはならなかった。


 脚力だけじゃなく、フラヴィは腕力もかなりあるようだ。

 魔物である以上は予想できたが、ロングソードでも振れるのには少々驚いた。

 もちろん振れることと扱うことは別なので、体系からショートソードの方が遙かに使いやすいこともこの子はしっかりと理解していた。


 これらをこの子が初めから理解していたとも思えない。

 人の姿へ変わった瞬間に知識が広がったのだろうか。

 もしそうだとすると、この子自身にも何か良くない影響を与えてるんじゃないだろうか……。

 極端に知識量が増えたんなら、しばらくは激しい運動をさせない方がいいのか?


 次々と答えの出ない疑問が浮かび上がり、産まれたてのフラヴィを育てていた頃を思い起こさせた。



 ふと、遊んでいたフラヴィと視線が合う。

 笑顔で小さく手を振るこの子に、俺も微笑みながら振り返した。


 俺の推察を証明するかのように、フラヴィは俺と同じ体術を使えるようだ。

 もちろん練度の差や判断力の差は随分と開いてはいたが、技術的な面で言えば俺が体得した技術を手にしているように思えた。


 その姿に、まるで子供の頃に戻ったようにも感じさせた。


「……今のフラヴィを紹介したら、俺は何を言われるんだろうか……。

 あらぬ誤解を与えなければいいんだが……。

 いや、まずはその確認をしないといけないか」


 家族へ紹介するにしても、まずはフラヴィの気持ちが優先だな。

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