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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第六章 僭称するもの
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予期せぬ事態

 ふたりを落ち着かせるようになでながら、俺はフラヴィが放った力を考える。


 ……この威力は……あれだな……。

 俺の力を引き継いでいるな……。


 軽く触れただけでも後方に流れる力を止められていない。

 力のコントロールができていない証拠だ。

 威力を考えれば、力の総量がかなりあることは確実に現れていたが、それを使いこなすには心と体をしっかり鍛えなければならない。


 技だけあっても意味がないんだ。

 心と体、すべてを揃えてこそ意味を持つ。

 それをこの子は技だけを身につけてしまった。



 強く震える涙目のフラヴィを抱き上げ、地面に座る。

 そのまま俺は足に座らせ、しっかりと目を見て話した。


「フラヴィ。

 いま使った力は、ものすごく強力なんだ。

 それはあの木を見ただけでもわかるだろ?

 その力はまだフラヴィには使いこなせない。

 今は体を鍛えなきゃいけないし、それは強すぎるのがもうわかったよな?

 その力は、俺がいいと判断できるまで使っちゃダメだよ」

「きゅうっ! きゅうっ!」


 首をぶんぶんと縦に振る涙目のフラヴィ。

 その姿に思わず笑みがこぼれそうになるも、それをこらえる。


 ここで茶化すようにしては意味がない。

 これは遊びで使えるような力じゃないんだから。


 予期せぬ事態でさすがに驚いたが、この子ならいずれ扱えるようになる。

 この力は強力だが、必要に応じて使えるようになった方がいいだろう。


 魔物との戦いに不向きだと思っていた矢先にまさか力が覚醒するとは、これも何か意味があることなんだろうか……。

 少なくとも、優しいフラヴィが使うのをためらう力であることは間違いない。

 正しく使わせなければ、この子を不幸にすることになりかねない。


 そんなことを考えていると、フラヴィは俺の胸で眠っていた。

 初めて力を使って疲れたのか、それともあまりの衝撃で精神的にまいったのか。

 いや、その両方かもしれない。


 俺も最初は戸惑ったし、妙な疲労感を覚えたのも記憶している。

 この子はとても優しいし、あの威力が何を意味するのか理解しているはずだ。


 ふと、足に温かな重さを感じ、視線をそちらに向ける。

 ブランシェも俺の足にあごを乗せて器用に寝ていた。

 フラヴィの姿を見て、眠くなったんだろうな。


「……さすがに驚いたが、まぁ、なんとかなるだろ」


 楽観的に思えるが、正直今の俺にはそう考えるしかできない。

 少なくともこの子はしっかりと俺の言葉を聞いてくれているし、フラヴィの性格上、万が一ということもないだろう。

 静かになった二人をなでつつ、俺は気配察知の修練に戻った。


 徐々に何かを掴めるような感覚を覚えるも、それに届かない日々が続いてる。

 ゲームなんかでは、ある特定のスキルを上昇させると新たなものを習得することがある。

 たとえば火と風の魔法を上げると、火炎竜巻のようなものを覚える。


 この世界では属性はひとりにつきひとつらしいから、それは不可能だ。

 だがそこに新たな可能性はあるように俺は思い始めている。


 "気配察知"と"魔力感知"。

 どちらも認識するスキルだ。

 後者はこの世界に来てからすぐに手にしたスキルだ。


 生命と魔法という違いはあるが、似通っている力であることは間違いない。

 なら魔力感知をⅢに上げれば、新たな世界が見えるかもしれない。

 英数字ランクに上げられるかもまだわからないが、試してみる価値はある。


 少しだけ先が見えたように思えた俺は、よりいっそう修練に励んだ。



 2日後の深夜、これまでの推察が正しかったのだと確信する"魔力感知Ⅰ"を手に入れることに成功するも、早朝にはその喜びを完全に吹き飛ばす事態に直面した。




 *  *   




 やたら重いと感じる体に、夜遅くまで修練していたことを思い出す。

 新たな可能性と、危険察知Ⅲの先が見えたようにも感じられた。


 これならそう遠くないうちに結果が出てくるかもしれない。

 そんなことを俺は現状も把握できずに考え続けていた。


「……そろそろ朝ごはんを用意しないと、はらぺこわんこが騒ぎ出す時間だな」


 体を起こすも、俺の胸から何かがずれ落ち、腹にぽふりと重さを感じた。

 いつもと違う感覚に戸惑いながら視線を向けると俺の思考は完全に凍りつく。


 そこには黒い髪を真っ直ぐ腰まで伸ばした少女が、一糸纏わぬ姿で眠っていた。


 これほどまで脳を活発にさせたことは、これまでの短い人生でもないだろう。

 何が起こっているのかを必死で考えている俺の前でその子は起きだし、寝ぼけ眼を手でこすりながら言葉にした。


「……おはよ、ぱーぱ」


 この時の衝撃は、今まで感じたことのない類のすさまじい威力を持っていたものだったことだけは憶えている。

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