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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第五章 誰がために
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悪手

 こう着状態が続いていたが、なおも警戒を続ける白銀の大狼に少しだけ近づいて話しかける。


「……言葉はわかるか?

 なぜあんたがこんな場所に来たのか、教えてもらえないか?」


 俺の問いに大狼は強烈な威嚇で応えた。


 言葉は通じない。

 そう思うのが一般的なんだろうな。

 ……けど、今のは確実に俺の言葉を理解して応えているな。


 これほど立派な白銀の大狼が、言葉を介せないほど知能が低いわけがない。

 今のは俺に対して"応える気はない、去れ"とでも意味を込めているんだろう。


 だが、そいつは悪手だ。

 その行動がもたらすのは、弱気の姿勢。

 俺が最初から狩るつもりで来ていれば、形勢が逆転するほどの悪手になる。


 そうするつもりがない俺にとっても、今の反応で話し合う気になった。

 どんな問題を抱えているか、なんてのは、この状況を見ていればわかることだ。

 おおよそは把握したが、あんたにとって今の行動は自身の首を絞めることになっているぞ。


 ……まぁ、俺は人間だからな。

 警戒を強めるのも当然か。


 さて、どうすればこいつを納得されられるのか。

 可能なら話し合いたいが、相手はそれを望んでいない。


 それでも話し合いに応じなければ、そこで終わるんだぞ。

 こいつは今の行動が正しいと本当に思っているんだろうか。


 いっそこちらも威圧を放つか?

 相手を屈服させるだけのものを向ければ、こういった存在にはかなり効果的かもしれない。

 ……敵対する覚悟も必要になるが、そうなったらなったで対応すればいい。

 そこまでする義理(・・)なんて俺にはないからな。


「……人間を信じていないのはわかるつもりだ。

 だが、現状のままでいいわけがないことも理解しているだろ?」


 さらに強く威嚇して返された。

 やはり俺の言葉を理解しているな。


 ならわかるはずだ。

 このままじゃ八方塞がりだってことも。


 長めに威嚇し続ける大狼にやはり無理かとあきらめかけた頃、左腕に乗って胸に抱きついていたフラヴィが勢いよく言葉にした。


「きゅ、きゅぅう! きゅうぅきゅう!」

「ふ、フラヴィ? どうしたんだ、急に」

「グルルル」


 なんだ?

 大狼もそれに応えてるようにも思える。

 フラヴィと話をしているのか?


「きゅうう。きゅうきゅ、きゅうう」

「ガアアアアッ!!」

「きゅッ!?」


 びくんと腕の中で飛び跳ね、俺の胸に逃げ込むフラヴィ。


 会話は失敗したんだろうか。

 それとも何かあいつを怒らせたのか?


 いや、フラヴィが誰かを怒らせるとは正直思えない。

 だとすれば、答えはひとつしか出てこないな。

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