選択を誤れば
そんな危機的状況で、自然とこの考えに行き着いた。
「……まさか、ゴーレムみたいな魔法生物が歩いてる世界じゃないだろうな」
気配察知で見つからない敵が出現した場合、状況は非常に厄介なものとなる。
気づかずに寝込みを襲われる可能性が出るということは、つまるところ一人旅がかなり危険なものになることを意味する。
ここから感じ取れるものから察すると、もう戦いは終わったようにも思えるが、問題の存在は真っ直ぐこの場所からすぐ近くを目指している。
動きに迷いはない。
恐らくは湖畔に出ようとしているんだろう。
このままだと確実に鉢合わせる。
しかし今回の相手が素直に話を聞くような存在だとは限らない。
何ものかに向けて、明確な敵対行動を取っていたと思える。
これは思っていた以上に厄介なことになりそうだ。
状況次第ではフェルザーの湖から離れることになりかねない。
だがこうしている間にも、刻一刻と状況は悪い方へと変わっていく。
「…………しかたがない。
かなり危険だが、確認しないといけないな……」
「きゅぅ……」
この子も気配で察しているのだろう。
回避できないと理解しているのか、どこか覚悟を決めているようにも見える。
……どちらかといえば、諦めといった方が近いだろうけど。
「……ごめんな、フラヴィ。
すごく怖いと思うけど、この相手は確認した方がいい」
「……きゅぅ……」
少し悩みながらも胸に抱きつく。
よほど気配の相手が怖いのだろう。
威圧とも言えるものに圧されて震えていた。
もうすでに何かを察しているのかもしれない。
この子はそういったことに長けているのか?
フラヴィの気持ちもよくわかる。
これが危険な気配をまとっているのも間違いじゃない。
だが……。
「まだ戦うと決まったわけじゃない。
あいつの時もそうだったし、会話ができるかもしれないだろ?」
「きゅぅ……」
少し落ち着いてはいるが、これは何かを警戒し続けている気配だ。
それも、必要なら攻撃することもためらわないだろう。
そんな気配をフラヴィも察しているんだよな?
今回は俺も"大丈夫だ"と軽々しくは言えない。
こいつは相当強い。
切り札はあるが、安心など微塵もできない。
第一、この子を抱えたまま使えるかもわからないんだ。
その上、腰に差しているのはいまだ使い慣れない西洋剣。
今更だが、木刀くらい作っておくべきだったかもしれない。
これは、選択を誤れば最悪の結果に繋がる。
それほどの強者を相手に、幼いこの子を抱えたまま戦えるのか?
いざとなればフラヴィを逃がしたいところだが、それも意味はないだろうな。
この子がひとりで離れるとも思えないし、何よりもフラヴィだけじゃこの世界では生きていけない。
……なら、俺が取る道はひとつだ。
こちらを攻撃する敵ならためらわない。
確実な一撃でケリをつけてやる――
「行こう、フラヴィ」
「……きゅぅ……」
覇気のある俺の言葉に、とても弱々しくフラヴィは答えた。




