何考えてんだ
何考えてんだ、この世界の住人は。
これまでに出逢った人達がそういったことをしないのは確かだが、逆にそんな馬鹿どももたくさんいる世界だってのが俺には赦せそうにない。
面と向かって彼女を狙うやつがいたら、俺はそいつを本気で襲いかねないな。
魔物との区別も付けずに、彼女達を攻撃し続けてるんだろうな。
それも霊薬なんて馬鹿げたものを入手するっていう、くだらない私欲のために。
そんなもの、一方的な迫害じゃないか。
いや、命を奪っている時点で、それすらも大きく逸脱しているか。
野盗や冒険者崩れなんて馬鹿どもが我が物顔で存在する世界なんだ。
これが推察の域を出ないとは、とてもじゃないが思えなくなってきた。
でも、ひとつだけ確かなことがある。
俺はそれを目の前の女性に話した。
「どうなるかは分からないが、あんたがこのまま犠牲になる必要なんてない。
もしかしたら、あんたを元に治せる方法だってあるかもしれないだろ?」
「……そう……なんで、しょうか?」
「世界は果てしなく広いんだ。
そのすべてを知るものなんていないだろ」
俺の言葉に彼女は目を丸くする。
その姿に違和感を覚えるが、俺は話を進めた。
「ダメ元で俺にあんた自身を託してみないか?
このまま犠牲にする選択なんて、俺は選びたくないんだよ」
「…………前向き、なんですね」
「あんたが後ろ向きなだけだろ。
気持ちまで地面に根っこが伸びているんじゃないか?」
「本当にその通りですね」
くすくすと静かに笑う女性に、俺はある確信を持つ。
なら、俺にできることをするだけだ。
何よりもフラヴィが見てるんだ。
カッコ悪いことなんて、できるわけがない。
「……わかりました。
あなたに、私のすべてをお預けします」
「さっきも言ったが、どうなるかはわからないぞ?
何も変わることなく植物のまま、戻れないかもしれない。
俺にはその保証も、確証も、確約もできない」
尽力する気持ちは変わらない。
だが、それでも届かないことだって確かにあるんだ。
俺にはそれを簡単に約束するような軽はずみな行動は取れない。
そんなことを考えていたが、彼女の意思はとても固く、揺るがないものだった。
「かまいません。
可能性が少しでもあるのなら、それだけで今の私には十分です。
私は、私自身の未来を、あなたに託したい」
「ようやく前向きな言葉が、覇気のある瞳で出てきたな」
「ふふっ、そうですね。
私にもそうするだけの覚悟がようやく決まりました。
その先がどうなるかは、私にとってはもう問題ではありません。
私自身がそれを望み、あなたはできる限りを尽くしてくれる。
私にはそれだけで十分すぎるんです」
「……わかった。
できる限りの方法を探ってみるよ」
ありがとうございます。
そう彼女は、透き通るような声で言葉にした。
その時の彼女はとても穏やかで、悩みなんて微塵も感じさせない明確な覚悟と意思を確信させる覇気をまとっていた。
俺にはそれが何よりも美しく、とても気高く見えた。




