皮肉な話に
そんな彼女がひとりの男性を救いたいと心から願うのも、どこか皮肉な話に聞こえてならない。
彼はそういった馬鹿どもとは明らかに違ったようで、話をする中、彼を救いたいと思えるまでそう時間はかからなかったと、女性は穏やかな表情で話した。
「マンドレイクは毒にも良薬にもなるって聞いたことがある。
魔力を帯びた状態ってのはよくわからないが、通常起こりうることなのか?」
「野に群生しているマンドレイクであれば魔力を帯びることはなく、霊薬としての効能もないと言われているそうです。
これは私の能力、いえ、私のマナが影響している特性と言えるかもしれません。
……詳しいことまではさすがに分かりませんが」
「……なるほど、少しだけ先が見えてきた。
つまりそこに特異性と解決策があるように思えるな。
外から何か別の力を加えることで、植物から原状へ戻れるんじゃないか?
魔力を極端に消費させて薬を作ることで状態が大きく変わってるんだ。
逆に外から大きな魔力を与えれば、いい方向へ向かうんじゃないだろうか。
……たとえば魔法具に使われる魔石や、魔力を帯びた結晶体のようなものを使えば、どうなるかはわからないだろ?
それほど単純な話じゃないかもしれないが、試してみる価値は十分あると思う。
まだ諦めるには早いと俺には思えてならないんだが」
可能性があるとすれば巨大な魔核、魔石の結晶体か。
ともなれば、ダンジョンにもぐるのが一番の近道か?
むしろそれ以外の入手法は、まるで思いつかないが……。
いや、ダンジョンで入手するにしても、問題がある。
恐らくは相当深くまでもぐらなければならないだろうな。
フラヴィを抱えたままじゃ、まだどうしようもないか。
ダンジョンを攻略するつもりで仲間を探す必要も出てくる。
様々な思考が渦巻く中、女性はぽつりと呟くように話した。
「……本音を言えば、私にもわからないことだらけなんです。
私達の種族は3年単位で成長し、進化すると言われています。
ですがそれには膨大なマナの総量が必要で、多くのものが成長の途中で人に狩られると聞いたことがありますが、その詳細すらも噂としてでしか聞いていません。
……そういったことを正確に知るものと出逢ったこともありませんし……」
申し訳なさそうに言葉にする女性。
だがこれまでの話で、ある程度は活路が見えたような気がした。
……あくまでも希望的観測にすぎないが。
「恐らくだが、あんた達の種族は希少種なんだろうな。
だからといって、俺にはあんたが魔物って認識はまったく持てない。
そういった考えはどこから来てるんだ? 魔物としての自覚があるのか?
俺にはあんたがそう呼ばれていることに違和感を強く覚えるんだ。
言葉を話す時点で違うと思えるし、何よりも俺の価値観からすれば精霊と呼ばれる存在に近いと思えるんだが?」
「セイレイという言葉は初めて聞きましたが、人と会うたびにそう言われて……襲われ続けてきましたので、私もそうなのだと深く考えることもありませんでした」
「必要以上には傷つけなかったが、それでも申し訳ないって顔に見えるぞ」
「……人を傷つけたのは、間違いありませんから……」
彼女は随分と苦労をしているようだ。
それでもいつ命を奪われるかもわからない日々を過ごしているのは間違いない。
文字通り、必死に隠れ住んでいたのかもしれないな。
彼女達の種族が長生きできない理由は、高価な霊薬欲しさから発見しだい駆逐され続けているのが原因としか思えない。
あくまでもその可能性ではあるが、十中八九当たってるんじゃないだろうか。
ここに強い憤りを覚えるのは、空人である俺だけじゃないと信じたいな。




