隠されたもの
こいつはこいつなりに必死なのは、初めから理解できていた。
目的は人助けで、本心から男性を救いたいと思っているのも十分わかってた。
だがこいつの目が、こいつの想いが、それだけではないと言っている。
その言葉に隠されたものを、俺がわからないと思ってたんだな。
あれは、"覚悟の瞳"だ。
それに俺が気づかないと本気で思ってたのか。
そのくらい、わかるに決まってるだろ。
自分がどうなるかなんてのは二の次。
男性を救えれば自分はどうでもいいって目だよ、それは。
幼いフラヴィはわからなくても、俺に隠し通せるわけないだろうが。
呆けるように言葉を詰まらせる女性に、さらに苛立ちがつのる。
「聞こえていただろうが、もう一度聞く。
魔力を渡したら、あんたはどうなるのかと、俺は聞いているんだ」
「…………その魔力で……この方を治すための治療薬を……作ります……」
「その後は?」
「…………」
……答えず、いや、答えられず、か。
だが、その顔が物語ってるな。
治療薬だけ作って消えるつもりだったな、こいつ。
姿を隠すって意味じゃない方の、物理的な意味で。
文字通りの命懸けで男性を救う気だったのか……。
……だから嫌なんだよ、こういうタイプは……。
「はっきり言うが、俺はあんたが嫌いだ。
目的のためなら自分の命なんてって目をしてるな、それは。
自分を犠牲にして自己完結するつもりか?
あんたはその意味を理解しているのか?」
「で、ですが! そうでもしなければ、治療薬は……。
……あとは、その薬をこの方に飲ませるだけで……救えますから……」
「人はそれを"自己犠牲"って言うんだよ。
命を賭して薬を作る? そいつを救えればそれでいい?
……馬鹿か、あんたは」
かなりキツイ口調で話しているのがわかるが、それでも苛立ちを抑えきれない。
こいつはその意味を理解せずに実行しようとしているのがはっきりと伝わる。
「……まだ気が付かないのか?
あんたの命で生き長らえた男の身にもなれと言ってるんだ。
誰かの犠牲の上になりたつ命が幸せに感じると、本気で思うのか?」
「……で、ですが……私にはもう、それしか…………」
方法がない。
言葉にできずともそう言いたいんだろうな。
だが俺には理解できないし、理解するつもりもない。
「なんで、"そいつを救って自分も助かる道"を探さないんだ?」
きょとんとする女性。
俺の言葉をまだ正しく理解していない様子だな。
まったく。
フラヴィの前で変な行動を取らないで欲しいもんだ。
自己犠牲なんてもんを憶えたら、どう責任を取るつもりなんだよ……。
深くため息をつきながら言葉にした。
「自分を救って、そいつも助ける。
その方法を考えもしないで、自分だけ犠牲になって終わらせるつもりかよ」
「……自分を救って、彼も助けるられる道……?」
「ここには優しくて物分りのいい、とても小さな子がいるんだ。
この子に変なことを憶えさるような行動をしないでもらえるか?」
はっと気がついたように、女性は自分が何をしようとしていたのかをようやく理解できたようだ。
それだけ切羽詰った状況なのも理解できる。
必死に助けたいと思っていたのも間違いじゃない。
その想いを否定したりはしないし、可能なら男性を救ってやりたいとも思う。
だが、自己犠牲ですべてを終わらせようとするなら話は別だ。
そんな馬鹿なことを、この子の目の前でさせるわけないだろうが。




