らしくない
これじゃ平行線のままだ。
やはり言葉に出して聞かなければならないだろうな。
「……魔力を渡したら、どうなる?」
「一時的に魔力はなくなりますが、それも通常通り回復するはずです。
あくまでも私はあなたの魔力を可能な限り渡してもらうだけで、必要以上に奪ったり、ましてや命の危機に直面するような非道は一切しないことをお約束します」
「……正直そう言われても、簡単には信じられないんじゃないか?」
その約束が本心から来るものなのはよくわかる。
俺の言葉に女性が暗く悲しい表情になろうとも、胸が痛むことはない。
冷たい声色になったが、それくらい強く言えば理解できるだろうか。
それに俺が聞きたいのは、そういうことじゃないんだよ。
やはり、はっきりと言葉にしなければ伝わらないか。
「あんたの言うことを、俺が信じられないのはわかるか?」
「…………そう……ですよね……。
……それでも…………私には、そうお願いするしか……ないんです……」
今にも泣き出してしまいそうな悲しい表情で言葉にする。
罪悪感がつのるも、それを軽々しく了承することはできない。
フラヴィは俺の顔を見上げ、不思議そうな表情を浮かべる。
わかってるよ、フラヴィ。
俺らしくないって思ってるんだろ?
フラヴィの知る俺は、そういったことを平気で言えるやつじゃないって。
きっと同じようなことが自分に起これば、魔力くらい簡単に渡すんだろうな。
フラヴィは優しいから、何のためらいもなく渡してしまうんだろうな。
そうだよな。
わかってるんだ、それが正しいことだってのは。
目の前で頭を下げながら懇願する女性の言葉に偽りはない。
最初から敵意がないことくらい、十分理解してるつもりだよ。
襲いかかることなんて絶対にないのも確信してる。
……でもな、フラヴィ。
それでもこいつには、そう言わなきゃいけないんだよ。
冷たい言葉でも投げかけるしか、今はできないんだ。
ここで魔力を軽々と渡すわけにはいかないんだよ。
「……私に……私にできることなら何でもします!
襲われることを気になさっているのであれば、治療薬を作り出せる限界まで痛めつけていただいてかまいません! だから!
…………どうか……お願いです……。
私に魔力を……分けてくださいませんか……」
瞳に涙を溜め、懇願を続ける女性に苛立ちがさらにつのる。
これじゃまるで悪役だな。
それでも安易に渡すなんて、できるわけがない。
こいつはそんな理屈だけで了承を得ようとしているのか?
それとも、隠し通せると本気で思っているんだろうか。
だとすれば、それは間違いだ。
俺はそれほどお人よしじゃないからな。
「どうやら正しく伝わってないみたいだから、もう一度聞く。
俺が魔力を渡したら、あんたはどうなるんだと聞いているんだよ」
俺の言葉に、大きく目を丸くした。
あぁ、こいつ、俺がそれに気がつく前に、すべてを終わらせようとしてたな。
……だから嫌なんだよ、こういうタイプは。




