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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第四章 魔物の卵
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最初の一歩

 ゴブリン。

 ここでは最下層の強さに位置する人型の魔物だ。

 世界中で見かけるこの種族はその数こそ驚異的だが統率力はなく、また大規模な集団での生活をした事例がこれまで確認されていない。

 特定の住処を持たずに1~3匹が彷徨うように歩き回るのが特徴で、多くても5匹程度しか集まることはないと言われている。


 動きは単純で遅く、冷静に対処をすればそれほどの脅威にはならない。

 なりたて冒険者が多数のゴブリンと出遭っても敗北した話はあまり聞かない。

 それには当然、初歩的な武器の扱いをある程度学ばなければならないが、その程度で十分倒すことのできる弱い魔物と定義された存在だ。


 農村などでは時たま被害があるが、それもすべて作物が食い荒らされるだけで、村を襲撃したり、ましてや女性をさらうなんて非道な事件は報告されていない。

 どちらかといえば集団には勝てないと理解しているようで、人里で子供が見かけても逃げ出すような臆病さと慎重さを持ち合わせているため、村人であってもまともな武器を持っていれば撃退することも可能な魔物だ。


 あの時ディートリヒが俺を護ろうとしたのは、あくまでも異世界からきた空人だと知った上での対応で、『あれだけ強けりゃゴブリンじゃ負けることはないな』と、のちに安堵されたくらいの相手だ。

 ラーラからも聞いたが、連中は最弱の魔物とこの世界では認識されている。


 だからといって、俺の足に捕まりながら震える子が相手をするのは不可能だ。

 フィヨ種も最弱クラスに入る魔物だが、鍛えればどうなるかはまだわからない。


 これはきっと、最初の一歩になるんだろうな。


「フラヴィも見ているのがゴブリンだよ。

 人の形をしているが、あれはフラヴィも感じているように危険な存在だ。

 動物を狩り、作物を荒らし、時には人も襲う悪いやつだ」


 今も震える小さな子を抱き上げる。

 まだまだとても軽い体躯に微笑ましく思えるが、優先して話すべきことがある。

 ゴブリンの生態や特徴を話しながら、俺はしっかりと何をするべきかを伝えた。


 フィヨ種は、世界に存在する魔物の中でも群を抜いて臆病だと聞いた。

 魔物学者の話では、敵対者と遭遇しても震えるか逃げ出すかの2択で、されるがまま命を奪われることも多いと言われている。


 恐らくはこの子や、この子の両親もそうなんだろう。

 それを疑わせないような臆病さをフラヴィも見せていた。


 だが俺の傍にいる以上、そんなことは絶対にさせない。

 たとえこの子が修練を積みたがらない子だったとしても、俺がフラヴィを傷つけるすべての存在を振り払ってやる。


「――だから戦えなくてもいい。

 誰かを慈しむような優しい子になってくれたら、それでいいんだ。

 でも、まずは頑張ってみような、フラヴィ」


 優しい声色で話しかける。

 震えながらもこちらを見上げる小さな子に。


 フラヴィが笑顔で世界を歩いていけるように。

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