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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第一章 はじまりは突然に
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引けない理由

 それは、とても不思議な感覚だった。


 今日初めて会った人達に命を預けることができるなんてな。

 昨日まではこんなこと考えもしなかった。

 ……でも、悪い気はしないんだよな。


「トーヤさん、お気持ちはとてもありがたいのですが、これは命懸けになります。

 それに、あなたはまだこの世界に来たばかりでしょう?」


 エックハルトはとても心配そうに話す。

 彼の言葉も理解できるが、それをディートリヒは否定した。


「いや、すでにトーヤは実戦経験を積んでいる。実力は申し分ない。

 相手はゴブリンだったが、3匹をたったひとりで一瞬のうちに切り伏せた」

「……ご、ゴブリンとはいえ、瞬殺したってのか?

 この世界に来たばかりのトーヤがひとりで、か?」


 驚愕の表情を見せる3人にディートリヒは続けて話す。

 ゴブリン戦で俺が示した力の一端を。

 まだまだ拙い内容だと思っていたが、どうやら彼らには刺激的だったようだ。


「に、にわかには信じられませんが、それが本当ならば十分助かりますね」

「いや、それどころじゃない。トーヤの実力は俺達以上のはずだ」

「そ、そうなのか、トーヤ」

「そこまでは判断できないです。

 俺は真剣での対人戦はしたことがありません。

 国元では修練の一環として木剣での経験を積みましたが、今回は本物の剣を使って命の奪い合いをすることになりますから」


 分かりようがないとしか言えない。

 ゴブリンは知能が低く、反応速度もかなり遅かった。

 慢心は危険だが、あの程度なら数十匹だろうと退けられる。

 しかしあれは魔物と分類される存在で、これから戦おうとしているのは人間だ。


 問題は、盗賊がどれだけの強さを所持しているか。

 そして俺自身が、人間を相手にして斬れるのか、という話だ。


 捕縛が目的だから実際に命を奪う必要もないが、その覚悟は持つべきだろう。

 そんな話をすると、彼らは驚きながらも言葉を返す。


「……す、すげぇんだな、空人って……」

「違うぞフランツ。すごいのはトーヤだ。あれは鍛錬による強さだったよ。

 空人だからかどうかは無関係だと俺は確信している。だが、連れては行けない」

「そうであるなら是非にと言いたいのが我々の現状なのですが、それでもやはり私もトーヤさんを連れて行くのは反対です」

「ま、そうだな。悪いが俺も反対だ」

「僕もです。申し訳ありませんが」


 満場一致で反対、か。


 まぁ、そうだろうな。

 そう言うと思ってたよ。


 本当にいい人達だな。

 俺のことを心から心配してる。

 空人かどうかは問題じゃなく、俺自身のことを思ってくれている。


 よく分かるよ。

 そういった善意や優しさをはっきりと感じる。

 でも、俺にはもう、ついて行かないって答えは選べそうもないんだ。


 俺も話を聞いたからな。

 ここで関わらなければ、俺はあいつに顔向けができなくなる。


「これは俺のためでもある、引けない理由になるんです。

 この世界で俺に必要な"覚悟"を手にするためにも、一緒に行きたいんですよ。

 だけどそんなものはただの理由付けなのが、皆さんにも知られてますよね?

 話を聞いた以上、このままではいられない。俺自身そいつらを許せそうにない。

 だからお願いします。俺も一緒に連れて行ってください」


 明確な声色と瞳に含ませた意思で訴える。

 しばらく俺の瞳を見つめていたディートリヒ達は、根負けしたように答えた。


「……はぁ。ここで反対しても勝手についてくぞって顔してるな……ったく」

「馬鹿だな、お前。無事に帰れる保証なんてないんだぞ?」

「それでも、ですよ。俺にはその道しか選べませんから」

「そこまで強い意思をお持ちなんですね……なら僕はもう、何も言えません」

「本音を言えば巻き込みたくはないのですが、それでもトーヤさんのお気持ちはとても心強く、嬉しく思います。それに、私達だけでは心許なかったのも事実です」


 呆れと嬉しさが半々といった様子で俺を見つめる4人。

 散々彼らを悩ませてしまったが、それでも最後は頷いてくれた。

 でも、あんな話を聞かされたら、誰だって許せるわけないじゃないか。


 私怨で勝手に動くわけにはいかない。

 それでもこれは俺にとって学べる機会にもなる。

 ひとりで経験するよりも経験者である彼らと共に行動すれば、それだけ安全性が増すことにも繋がるし、冒険者としての知識も学べるだろう。


 これは決して悪い話じゃないと俺には思える。

 たとえそれが、命をかけることになったとしても。



「トーヤを連れて行くにあたって、色々と必要になることがあるな」


 ディートリヒはそう話すが、それに関してもお願いしようと思っていた。

 そのひとつが、魔法の対処を含む対人戦の経験だ。


 盗賊どもが物理攻撃のみで迎撃してくるとは限らない。

 なんのためらいもなく命を奪いに来る連中をこれから相手にしようとするのだから、その対処法もしっかりと考えなければ危険だ。

 これは実際に訓練として俺らと戦ってみるのが一番だとディートリヒは話す。


 修練としての経験は以前から積んでいる。

 問題は1対1じゃなく、多数の敵を相手にした時と真剣でのやり取りになる。

 頭では十分に理解しているつもりだが、実際には出たとこ勝負になるだろう。


 ありとあらゆる状況を想定する必要がある。

 そんなことを話しながら、まずは1対1での訓練に入った。


 まぁ、それは5分で終了して、すぐに別の内容へ変更したわけだが。

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