第五十五話〜陰謀〜
……使節視点
我が王の命に従い、彼の国へ再びやって来た。と言っても、前に来た者とは別であり、私自身は初めて彼の国へ赴く。
前回の航海記を頼りに進み、前と同じと思われる場所へ辿り着く。現地住民は直ぐに我々だと気付いたようで、現地の首長を呼びに行った。
彼等の道案内を受けて都へと進む。我等の島より広いようで、立派な道が向こうまで延々と続いている。素直に賞賛したいところではあるが、彼等から見て敵国たる我等がそのような行動に出れば、今後の我が王の行動に支障が出るだろう。
報告通りの、全く見たことも無い建物へ入ると、高官級の人物が出迎えてくれた。
「遠い旅路を良くぞ参られました。この国の宰相で御座います。ささ、先ずは宴をば」
彼はそう言うと、召使を呼んで料理を持って来させた。見た事も聞いた事もない珍品の数々が並べられ、また土産と称して、大変美しい織物を始めとする財宝を惜しげもなく我が目の前に並べて見せた。
「いやぁ、これで何度目の会談でしたかな。計画の方は順調ですか」
突然、訳の分からないことを聞かれる。計画とは、何の事だ。
「やだなぁ、あの計画の事に決まってるじゃないですか。あっ、さては防諜の警戒ですか。相変わらず杙戈杙殿の使者は、誰であっても真面目ですなぁ」
クイカクイ様が、敵と繋がっていた。もしこれが本当ならば、大変な事になる。クイカクイ様は我が王に次ぐ実力者。支持者も多く、一度でも反旗を翻せば王権簒奪も容易かろう。
「……私の話、もしや理解してらっしゃらない。まさか杙戈杙殿の使者では無いとか……」
「そのまさかだ。我等は、我が王の命を受けてやって来た」
「なんだ、防人の見間違いでしたか。確かによく見れば服装が違いますな。全く、大切な事を殆ど話してしまいましたよ。過ぎた事とは言え、辛いですなぁ」
彼はそう呟きながら、何と目の前の料理や宝を皆片付けさせてしまった。クイカクイ様の使者は、毎度あんな物を貰っていたのか。そしてクイカクイ様は、あんな宝物を、あろう事か敵から貰っていたのか……
「敵に送る物なぞありやしません。此方をどうぞ」
そう言って出てきたのは、余りにも粗末な代物であった。禁忌を破った罪人でも、もう少しましな物を食べるだろう。こんな物、豚でも食べるまい。
「大変な侮辱だ。我が王は再度の降伏勧告を呼び掛けるよう私に命じたが、どうやらその必要も無いらしい。失礼させてもらう」
怒り心頭の私は、座っていた物を蹴るようにして立ち上がり、足早に帰った。人を人と思わぬ所業に憤激しているのもそうだが、クイカクイ様が敵と内通している旨を、急ぎ我が王に知らせねばならなかった。
……首長視点
「……以上から考えますと、クイカクイ様は敵と繋がっていると考えるべきです」
余りにも衝撃的な報告だった。彼奴等から降伏の旨を引き出すために送った使者が、とんでもない事を持ち帰って来た。
クイカクイの裏切りと内通。あの有能な奴が、敵と繋がっていた。言われてみれば、封鎖継続の進言といい、私に間違った道を指し示すような素振りもあったように思う。
「クイカクイ、クイカクイは何処だ!」
「我が王よ、私は此方に」
「……ッ! 貴様、裏切りおってよくもぬけぬけとそんな顔が出来るなぁ!」
あまりの怒りに、思わずクイカクイの胸倉を掴む。此奴は全く分からんとでも言うような顔をして、此方を見ている。
「我が王よ、一体何の事……」
「惚けても無駄だ! 敵に送った使者を、彼奴等は貴様の使者と間違えた! 何時そんな事をした!」
「我が王よ、どうか落ち着いて……」
「禁忌を犯しておいて何たる言い草! 貴様は死罪だ! この者を連行せよ!」
周りに命じクイカクイを連れて行く。無実だ何だと喚いているが、犯罪者は皆そう言うのだ。どうして信用されようか。死罪は今日中にも執行されるだろう。
そう言えば、巨島の奴も良い態度であったと言えんな。ともすれば、彼奴も内通しているのやも知れん。
「誰か、アホエイクも調べよ。奴も裏切るやも知れん」
危険因子は極力排除せねばならない。不満分子を残した結果、無様に殺された生前を繰り返してはならない。もう、部下に殺されてはならない。
裏切りは、徹底的に排除せねば。




