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【書籍化、コミカライズ企画進行中】婚約者は義妹と結婚して我が家を継ぐそうです。は?~欲をかいて思い込んで調子に乗った末路~【書籍版:欲しがりな義妹に堪忍袋の緒が切れました(後略)】  作者: 重原水鳥
書籍版3巻(電子) 発売記念 小話 『カリスタ・ブラックムーンストーン 貴族学院四年』

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【05】後悔

 本日、3巻(電子版)発売です! よろしくお願いします!

 今回の一連の出来事は、確実にカリスタ・ブラックムーンストーン個人を狙っているものである。


 第一に、カリスタの私物が入った棚が荒らされた。

 これが犯人からカリスタたちへのなんらかの意味合いを込めた出来事だったのか……それとも、ただ、第一段階としてカリスタへこれから起こる事を予告していたのかは、定かではない。


 そして第二に、カリスタ自身の身が狙われた。

 どの程度の被害を求めての行為だったかは定かではない。ただ、あの階段でカリスタがとどまる事が出来ずに落下していれば、かなりの被害を負う事になっていただろう。

 カリスタの被害が足への打ち身などだけですんだのは、運が良かっただけに過ぎない。


(犯人は一体誰?)


 案の定、廊下での出来事の犯人は見つけられなかった。


 カリスタが突き落とされた瞬間の目撃者はもちろん、突き落とされた後に不審な動きをしていた学生もいなかったという事だった。


(犯人は……ヘレンなどとは一切関係のない、私個人との因縁がある方なのかしら。そうだとすると……ここまでするほどに私への恨みや怒りを滾らせている方なんて、私には思いつかない)


 人は無意識のうちに恨みを抱かれる事もある。だとすると、犯人の行動に付け入る隙でもなければ、簡単には見つからないだろう。


「カリスタ。考え込むのは良いけれど、今は気を紛らわせましょう?」

「あ……ごめんなさい、カチヤ」


 カチヤからの声かけに、カリスタは意識を目の前に戻す。


 二人は貴族学院のいくつもある中庭の一つにある、ガゼボにいた。

 八本の柱に支えられている、八角形の屋根の下に、テーブルとイスがある。そこに、カリスタとカチヤの二人が向かい合うように座っていた。

 学院は広い分、さまざまな位置に様々な形のガゼボやベンチなどが用意されており、学生たちは各々の気分に合わせて休息をとったりする事が出来るようになっている。


 二人は授業の合間、お互いの空いている時間に、休憩をする為に訪れたのだ。

 目の前には紅茶がある。金銭を支払う事で、学院側が用意をする紅茶をガゼボで飲むことも出来る。


「カリスタから、出来れば外で過ごしたいといわれた時は不思議に思ったけれど……確かに、この場所は悪くないわね。屋内は、周囲から見えない分、何かあった時には周囲に問題が伝わりにくいもの」


 カチヤは紅茶を飲みながら、周囲を見た。


「ええ。安全さを上げるのならば……周囲から見やすい場所の方が良いと思ったの」


 このガゼボの周囲には、他の建物もなければ、高い樹木もない。広い芝生の庭の中央に、ポツンとガゼボと、カリスタたちの膝より低い高さの花の鉢植があるばかり。


「もし誰かが近づいてきていたら……すぐに、分かるでしょう?」

「ええそうね。……そういう事だから、いつまでも地面の上にうずくまらなくてよくってよ」


 向き合っていた令嬢たちの視線は、ゆっくりと横に向けられた。


 カリスタたちの膝よりも低い高さの、花の鉢植。いくつも並んでいるそれは満開間近という白い花が咲いている。

 その、緑と白の向こう側。

 そこに、別の白が見えていた。花ではない。髪の毛だ。その後ろには、背中も見えている。

 太陽の光に当たっている部分は、白ではなく薄黄緑に変化している。


「……」


 令嬢たちの視線の先にある、花ではない白い塊は動かなかった。カチヤは呆れたように息をつく。そんな親友に苦笑しつつ、カリスタは未だ動こうとしない相手に声をかけた。


「――申し訳ないけれど、私たちの時間も無限ではありません。何か用があるのでしたら、お聞きいたしますわ。カッターニ・ホワイトオパール男爵令息」


 ビクリと、見えていた背中が揺れた。それから、恐る恐るという風に、鉢植の向こうに隠れていたつもりだったらしい令息は、顔をのぞかせた。


「…………」


 カッターニ・ホワイトオパール男爵令息は、視線を下に落としていた。


 隠れているのが誰かは、早い段階で分かっていた。

 まず、カッターニの生家であるホワイトオパール一族の特徴である髪の毛で、家系が特定された。光が当たる部分だけが色が変わる白髪は、ホワイトオパール特有と言われている。

 ホワイトオパールの家系のもので、カリスタやカチヤにわざわざ用がある人間は、更に限られる。

 何より、カリスタはしっかりと彼の顔も知っている。横顔や後ろ姿でも、なんとなくカッターニだと分かる程度に理解していた。


「ホワイトオパール様。ご用件を、お伺いいたしますわ」

「…………そ、その」


 カッターニは、気まずげに視線を落としてもごもごと口ごもるばかりだった。


 カリスタの知る彼とは、随分と様子が違う。もっと自信に満ち溢れて、強気な男だったはずである。

 何があったかは知らないが、今の彼は別人のように弱弱しかった。


「ホワイトオパール様。ご用件がないのであれば……」


 動かないカッターにこれ以上付き合えないとばかりに、カリスタは視線を逸らす。そうすると、慌てた様子で男子学生は声を上ずらせた。


「! あ、あの! ヘレン嬢はっ! …………ヘレン、嬢は、その……今どうしているのでしょうか……?」


 カッターニの問いに、カリスタは表情を動かさないままに彼を見つめた。


「ヘレンはフィッツヴィールの女学院に入りましたわ」

「それは、存じ上げています。そうではなくてッ……、その、女学院に入って、以降を知りたくて……」

「それを貴方にお伝えしなくてはならない理由が、私にはありませんわ、ホワイトオパール様」

「ウッ」


 彼に詳細な部分まで説明をする義理は、カリスタにはない。むしろ、己の家の難しい部分に触れる為、簡単に他人には話す事など出来ない話題だ。


「私と貴方との間には何の関係もなく、我が家と貴家(きか)の間にも何の関係もありません」

「そ、それは……そう、ですが……お、俺は……」


 カリスタはちらりと親友を見た。表面上は特にカッターニを気にした様子もなく紅茶を飲んでいるだけに見えるが、これはかなり不愉快に感じていると見た。


(あまり長引かせると、カチヤが怒り出してしまうかもしれないわね。……ああ、ホワイトオパール様がこのような態度なのも、カチヤがいるからかしら?)


 ホワイトオパールの一族もかなりの勢力を持つ一族であるが……彼はその中の、末端。

 一方、カチヤはエメラルド一族というホワイトオパールをしのぐ勢力を保持する一族のもので、本流に位置する人物だ。緊張するのも、当然の事であろう。


 そんな風に、目の前からカリスタは意識を反らしていた。少し考え事が出来た時、殻にこもるがごとく沈黙してしまうのは、カリスタの昔からの癖である。


 それは、対話中の相手からすれば、見放されたようにも見えていた。僅かに青くなった顔色で、カッターニは慌てた様子で口を開いた。


「お、俺には確かに、彼女の先を知る権利はありませんっ! で、ですが……俺はそれを知らなくては、ならないんです」

何故(なにゆえ)に?」

「俺の行動が……ヘレン嬢を、その……調子に乗らせてしまったと、思うから……」


 カッターニは芝生を睨むようにしながら、語った。


「俺が、俺たちが、ヘレン嬢を、不必要なほどに褒めたたえた。それで、彼女は、自信を得た。それで、欲が出た。養子の立場でありながら、正統な血筋である貴女の立場を奪おうとした。それに、彼女は失敗した。それで……養子縁組も解消されて、遠くに行かざるを得なかった……」

「……」

「彼女のした事は、間違っていた。でも、そんな行動をとった原因は……彼女の見目(みめ)が麗しかったのに浮かれて、周囲を取り巻いた、俺たちにもあったはずなんだ。だから俺は、俺のせいで、立場も何もかもをなくした彼女の今を、知らなくてはならないんだ。己の罪を、ちゃんと見ないと……」


 カッターニの様子は、まるで己の罪を告白する罪人のようであった。

 ヘレンの行動の原因が、自分にあると強く思い込んで、己を追い詰めてきていたらしい。


 少なくとも、カリスタには彼の言葉が偽りには聞こえなかった。


(……確かに、学院に出るまでの間、あの子は社交というものを全くしてこなかった。彼女は長らくお爺様とお婆様に溺愛されてはいたものの……その美貌がもっと多くの人に通用すると知ったのは、学院に入ってからでしょうね。……とはいっても、それは些細な事。彼女があのような行動をした切っ掛けも原因も、彼の影響によるものではないわ。あれは、我が家に長年巣くっていた事情によるもの。……そういう面では、ヘレン自身も被害者ではあった)


 カリスタはふうと息を吐いた。それから、まだ必死に言葉を紡いでいるカッターニに尋ねた。


「……私の周りによく現れてはこちらを睨むようにして見つめていたのは、なぜでしょうか」

「え……あ! …………その、今の事をお尋ねしたくて、ただ、ヘレン嬢の話題は、多数の人の前でする事は……よろしくないと」

「そうでございましたか」


 ヘレンを学院から追いやった事に関する恨みで睨まれていたのだとばかり、考えていた。

 実際にはそうではなかったという事を知れたのは、少なくともカリスタにとっては良い事だと思えた。同時に、自分が周囲の言動を悪くとらえてばかりだったとも感じた。


(これからはやはり、己の思考や性格をもっと是正していかねばならないわ)


 だが、容易な事でもないだろう。

 何せ物心ついてから十六歳までの殆どの期間、カリスタは何事でもヘレンを優先しカリスタに我慢を強いる祖父母の強い影響を受けて育ってきたのだ。

 祖父母が近くからいなくなった今でも、染み付いた考え方などは消えないのだ。


(私自身の事は後でゆっくりと考える事が出来るわ。今は……)


 カリスタは、気まずそうに立ち尽くしているカッターニを見る。


「……ホワイトオパール様の仰ることは、理解いたしました」

「…………」

「ヘレンについては――我が家固有の問題故に、今の結果があります。数か月、学院で共に過ごされただけのホワイトオパール様に全ての罪がある訳ではありませんので、どうかこれ以上お気になされないでくださいませ」

「……だが、いや、ですが……」

「ヘレンの現在について、ですが……ホワイトオパール様は、明日、空いているお時間はありますでしょうか?」

「明日、ですか? それでしたら……えぇと、朝いちばんが一番、時間が空けられると思います。明日は全ての時間帯で、授業が入っておりますので……」

「では、一つ目の授業の前に、この場所に来てくださいませ。ヘレンの現状については、基本的には話しても問題ないとは思いますが……当主である父の許可を得たいので」

「わ……分かりました」


 カッターニが去っていく。


「軽々しく信用して、話す約束を取り付けてよかったのかしら」

「少なくとも、私は先ほどの言葉が嘘、偽りには聞こえませんでしたわ。カチヤもそうであったから、口を挟まなかったのでしょう?」


 言い返してこないのが、何よりの答えだった。


「……あら、雨だわ」


 ふと、カリスタはガゼボの外を見てつぶやいた。まだ本格的な振り方ではないが、ぽつりぽつりと、しずくが芝生や鉢植の花を濡らしていた。


「いけないわね。早く学院内に戻りましょう」

「ええ」


 そうして二人は、ガゼボを離れた。


 二人がガゼボを離れてからそう時間が立たずに、雨は本格的に降り始めたのだった。

 こちらの番外編はあとちょっとだけ続きます。

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 5月9日に【電子】にて発売いたします! 3巻と銘打っておりますが1巻2巻とはヒーローもヒロインも違いますので、3巻から読んでいただいてもなんの問題もない仕様となっております。
 年下ワンコ系ヒーロー × 年上ちょい不器用(?)ヒロイン のお話に少し興味がある方は、お手に取っていただけると幸いです。
(↓以下の外部サイトに飛びます)
欲しがりな義妹に堪忍袋の緒が切れました ~婚約者を奪ったうえに、我が家を乗っ取るなんて許しません~:3



 上の作品の前日段として、1巻・2巻もよろしくお願いします! ↓以下のリンクをクリックされると、双葉社様のページに飛ぶことが出来ます。(外部サイトに飛びます)
欲しがりな義妹に堪忍袋の緒が切れました ~婚約者を奪ったうえに、我が家を乗っ取るなんて許しません~(書籍版)
欲しがりな義妹に堪忍袋の緒が切れました ~婚約者を奪ったうえに、我が家を乗っ取るなんて許しません~2
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