紗弥だから
俺達が家を出た後、
「行ってきまーす」
と、恵が言った。
「恵が早起きなんて珍しいな」
「…………何言ってるの、輝弥くん? 私、いつもあれくらいの時間には起きるよ」
「どうしたんだ恵? 俺のこと今、輝弥くんって……」
「言った。後、私は恵じゃなくて紗弥だからね」
「?」
俺は全く状況がわからなかった。
状況を理解するために、もう一度恵を見る。
…………いつもと変わらない。
そしてさっきの言葉を思い出す。
紗弥だから?
…………紗弥だから!?
「お前、紗弥か!? …………でもなんで恵の中に?」
「あそこに呼び込んで言ったの。ホームルームまで体を私に貸してくれたら、いつもより長く寝ていられるよ、って言うと、すんなりOKしてくれた」
あそことは多分、あの白の世界だろう。
もしかして、こいつが恵の中にいたからあそこに行けなかったのか?
それで俺は納得した。
……それにしても恵のやつ、
そんなことで体を貸すなんて…………
そういえば、なんでこいつは外に出てきたんだ?
「なんでここに来たんだ?」
「……外の空気を吸いたかったの」
「それならこいつの体使えばいいじゃねーか 」
紗弥を指差して言う。
「それもそーなんだけどね…………恵ちゃんと話してみたかった」
「話してみたかった?」
……もしかして、妹いないのか?
「お前、何人家族なんだ?妹いないのか」
「うん。4人家族で、2つ上の兄が一人いる」
「そうなのか」
てっきり俺は恵と兄貴がいると思っていたが、違うらしい。
ということは、兄貴はそのままの兄貴ではないのだろうか。
「その兄貴ってどんな人なんだ?」
「一言で言うと、頼りになる人、かな 」
「そうか」
…………絶対兄貴とは別人だな。
兄貴は頼りになるが、まずシスコンというキーワードがでてくる。
だから別人だとわかる。
でもそれがよかったのかもしれない。
あれが兄貴で一人で相手してると、毎日疲れるだろうし。
俺達はいつもより5分遅く学校についた。




