【コミカライズ記念SS】王子様も苦労が絶えない
本日2025/7/10 エンジェライトコミックス様よりコミカライズ版の電子配信が始まります。
ピッコマ先行配信となります。
その他の電子書籍サイトでの配信は一ヶ月遅れとなりますのでご注意ください。
作画は、四方谷はたけ先生です。
可愛いミルフィーや格好いい殿下、そして苦労性のお兄様を是非ご覧下さい。
一話は無料で読んで頂けるようなので、気になる方は宜しくお願い致します。
詳細は活動報告をご覧ください。
僕の最初の婚約は、はっきり言って失敗だった。
今でも婚約当時のことを思い出すだけで胃が重くなるほどだ。
「ほんと、最悪だった……」
元婚約者であるアンネローゼ・マルゴリーは、甘やかすにも程があるだろうと思えるほどに両親から可愛がられており、お蔭で貴族として致命的なほどに無知で頭が弱かった。
王子妃教育どころか公爵夫人としてもダメだと教師が匙を投げ出すほどで、だからと言って慎ましいのかと思えば、まるで子どものような我が侭を連発する女性だった。
暴力的でも高圧的でもなく、一見すればただ可愛いだけに見える彼女だが、気に入らないことがあれば子どもが癇癪を起こすように泣き喚くのだ。
彼女の我が侭に最初は付き合ったりもしたが、ドレスが気に入らないと泣かれて贈り直すのが三度目になった時、僕はもう彼女に物を贈るのは最小限にしようと心に誓った。
レースのフリルをたっぷり付けたドレスがいいと言った癖に、持って行った時には刺繍が良かったと言われたら誰でも切れる。しかも本人が以前言ったことを覚えていないのだから性質が悪い。
本気で頭が大丈夫かと思うほどに、彼女は余り物事を深く考える女性ではなかった。
はっきり言って公爵夫人どころか、貴族令嬢としてもかなり致命的だ。
それでも婚約破棄にならなかったのは、彼女の父である侯爵の面子を配慮した結果である。
母の実家である公爵家の派閥だったことと、なまじ発言力のある侯爵家だったことが災いした。
「けれど、何だかんだ言ってシステラム嬢と婚約出来たのだから良かったではないですか」
「まぁ、かなり強引な手段だったけどね」
隣で生徒会の書類をまとめていたパルマに言われて肯定したものの、一歩間違えればそのままアンネローゼと結婚していたと思うと肝が冷える。
婚約破棄に一役買ってくれた祖母には一生足を向けて眠れないと思っているし、出来ればここまで最悪なことになる前に父か母でどうにか出来なかったのかと思っていたりもする。
まぁ、結果として慰謝料代わりにマルゴリー家の領地の三分の二を拝領出来たのは幸いだった。
これだけの領地があれば公爵家としての面目も立つし、結婚後もミルフィーに苦労を掛けずに済む。
「………なんて思っていたけど、甘い考えだったよ」
「殿下……」
拝領した旧マルゴリー領だが、台風被害が長年放置されており、余りいい状態ではないことが判明した。
国から出た災害復興金はどうやらアンネローゼのドレス代に消えていたらしく、僕が視察に向かうと、関係者から大歓迎で迎えられた。
その圧の凄さに腰が引けた。
復興支援は頑張るつもりだけど、僕が領主になったからと言って直ぐにどうこう出来るわけではない。
「農地が結構壊滅的の上、領都の街道もガタガタでさ……」
「それで、予定よりも帰りが伸びたのですね」
「お蔭でミリーとろくに会うことも出来なかったよ……」
問題はそこだ。
折角婚約したというのに、ゴタゴタ続きで彼女とは余り会えていない。
「しかしそれも今日までだ。明日からはいよいよこちらに転入してくるから、みんな宜しく頼むね」
「もちろんです」
「確か、フーゴの代わりに生徒会の手伝いもしていただけるんですよね?」
「ああ。何とか説得できた」
商会の仕事が忙しいので辞退したいと言われたが、僕が出来るだけ長く一緒に居たいと駄々をこねた。
抱き締めて、頷いてくれるまで離さない勢いでお願いして何とか了承して貰ったのだ。
「ミリーの仕事は僕がちゃんと面倒を見るから、ケイト嬢も助けてあげてくれるかい?」
「もちろんですわ。未来の義妹と一緒に仕事が出来て嬉しいです」
「義妹と言えば、リーゼ嬢の方はどうだい?落ち着いた?」
「ええ。ガントレッド様と婚約してからは特に落ち着いていらっしゃいますわね」
「あ~~、まさかルドルフが彼女と婚約するとは思いもしなかったな」
軍部に絶大な影響力を持つ辺境伯の次男が、まさかリーゼ嬢と婚約するとは夢にも思わなかった。
いつもつまらなさそう顔で黙々と剣術の練習ばかりしていた男が、今ではリーゼ嬢にべったりで何処に行くにも一緒だ。
二人の仲は非常に良好で、王族である僕だけでなく辺境伯とも繋がり持つことになったシステラム家を、かなりの貴族が妬んでいると聞く。
「心配だな……。転入先のクラスで虐められたりしないかな?」
「そうですわね。私達とは学年が違いますので、少し心配ですわね」
「僕が初日に挨拶に行けばマシになると思うかい?」
「……益々妬まれるのでは?」
婚約は既に発表されている為、わざわざ煽るようなことはしない方がいいという結論に達した。
だが、そうすると中々二人で過ごせない。
「お昼を二人で食べたいんだけど……」
「私とパトリック様の同席がご不満ですか?」
「いや、君たちだって二人きりがいいだろ?」
「………パトリック様を皆さまが放ってくださらないので」
二人きりで過ごしていても、誰彼と現れては話し掛けてくるそうだ。
やれ新商品がどうの、街道整備のアドバイスがどうのと、男女問わずパトリックの傍に寄ってくるらしい。
だったら、僕と言う人避けがある方がマシだとケイト嬢が真顔で答える。
僕、これでも王子なんだけど、扱いが酷くないだろうか?
「最近では家に帰っても兄に婿殿は次はいつ遊びに来るんだと聞かれます……」
「仕事の出来る男は大変だな」
「「はぁ……」」
ケイト嬢と二人、中々婚約者とゆっくり過ごせない日々にため息が出る。
そもそも、システラム兄妹は仕事のし過ぎではないだろうか?
「でも漸くキャサリン嬢や元夫人の件が落ち着いたそうなので、ゆっくりと出来るとパトリック様が仰ってましたわ」
「それは僥倖だね。あの二人にはそのまま田舎で一生を過ごして欲しいものだね」
「ええ、パトリック様の為にも大人しくしていて欲しいですわ」
そう言いながら、何かを思い出したのか、薄っすらと頬を染めるケイト嬢はパトリックと婚約してから雰囲気が柔らかくなったと思う。
フーゴと婚約していた頃は彼といるだけで眉間に皺を寄せていたので、少しだけ心配したりもした。
まぁ、心配を掛けたのは僕も同じで、パルマには公私ともに心配を掛けた。
「お二人とも、システラム兄妹と婚約してから表情が落ち着きましたね。以前は婚約者が何かをやらかす度にため息を吐いてましたから」
「そういうパルマだって同じ公爵家だというのに、フーゴには随分扱き使われていたよね」
「フーゴに仕事を任せるくらいなら私がした方が早かったのでね。今後はシステラム嬢にお手伝いいただけると聞いて、私も一安心です」
「おい、パルマ。ミリーは僕の手伝いだから、気軽に話し掛けないように」
「……はいはい、殿下の仰せのままに。お手伝いを頼む時は殿下経由でお願いさせていただきます」
面倒くさい……と小さな声で呟かれた言葉は聞かないことにした。
明日からのミルフィーとの学園生活を思えば、寛容な心で受け流せる。
「楽しみだ」
明日の今頃はこの生徒会室にミルフィーもいるのだと思うと心が躍る。
だが、僕のそんなささやかな楽しみは翌日、あっさりと覆ることになった。
「ライ様……」
「やぁ、ミリー!いらっしゃい!待ってい……たよ?」
待ちに待った翌日の放課後。
昼休みは残念ながら僕の用事で共に過ごせなかった為、放課後になるのを今か今かと待ち焦がれていた。
だが、ようやく生徒会室へとやってきた彼女の後ろには、何故か数人の女子生徒達が立っている。
「えっと……?」
「初めましてラインハルト殿下!私、ミルフィー様と同じクラスの……」
「私は彼女の親友の……」
「今日、とっても仲良くなった……」
次々とミルフィーとの仲をアピールしながら生徒会へと入って来た女生徒は全部で五名。
仲が良いという割に当のミルフィーを押し退けて遠慮なく入ってくる彼女達に、ミルフィーも驚いた顔をしている。
「えっと……、皆さん?」
「あらっ、ミルフィー様。どうなさったの?お入りになって?」
「いや、勝手に入って貰っては困るんだが?」
まるで自分が生徒会室の主のように答えた侯爵令嬢に声を掛けると、彼女は驚いたように目を見開きミルフィーを見た。
「ミルフィー様はどうやら入ってはいけないようですわ」
その言葉にミルフィーが固まっている。
それはそうだ。
今の言葉はミルフィーに言った訳ではないことを、ここにいる全員が分かっているからだ。
「ミルフィー様、良ければカフェでお茶をしましょう」
「……ケイト様」
理不尽男の婚約者を長年やってきていたせいか、常識外れの対応に慣れているケイト嬢が逸早く動いた。
さり気なく女生徒達から距離を取るようにミルフィーの肩を抱き、鋭い視線で僕を見る。
その眼差しが、お茶をしている間に始末しておけと怖いくらいに物語っていた。
「ミルフィー様、今日はパトリック様も図書館にいるとのお話でしたから三人でお茶をしましょう」
「ま、待てケイト嬢!パトリックはまずい」
あいつは何だかんだ言って妹達を非常に可愛がっている。
下手をすれば、生徒会が荒れる。
「殿下、頑張ってくださいませ」
ケイト嬢の無情な言葉と、困惑した顔でこちらを見るミルフィーの視線が痛い。
それもこれも意味も無くやってきたこの女生徒達のせいだ。
「君たちは一体何をしに?」
「何をって、もちろん生徒会のお手伝いですわ。女学園に通っていた伯爵家のミルフィー様に出来るのですから、私達ならもっとお役に立てるかと」
ようするに、彼女達はミルフィーを下に見ているのだ。
確かに女学園はこの学園に比べれば学力値が少々低い。だが、ミルフィーは敢えて兄妹たちとは別の学園を選択しただけであって、決して学力が劣る訳ではない。
「じゃあ、君たちにはこちらの書類をお願いしようかな」
パルマに言って、外国語で書かれた書類を5部用意して貰った。
学園では選択外国語に入ってはいるが、余り人気のない外国語だ。
当然彼女達は誰一人それを読むことが出来なかった。
「この程度の文を読めないようでは、とても手伝いを頼めないな」
「で、でもミルフィー様だってっ」
「彼女は勿論読めるよ。それとね、君達の今日の行動を婚約者達は知ってるのかな?」
僕の言葉に彼女達がグッと押し黙る。
彼女達はそれぞれ侯爵家と伯爵家の令嬢だ。当然、全員に婚約者が存在する。
それなのにこうまでして僕と接触しようとするのは、未だに僕の婚約者という地位を諦められていないからだ。
ミルフィーで良いなら自分でも!と、思っているのだろう。あわよくば、今の婚約者を捨ててでも僕に選ばれたいと考えているのが分かる。
アンネローゼと婚約破棄してから、特にそういう女性が増えた。
「生徒会は基本、関係者以外の立ち入りは禁止だ。システラム嬢に手伝いをお願いする件に関しては顧問の許可を得ている」
僕と同じように呆れた顔でパルマが彼女達から書類を奪い返した。
ミルフィーとケイト嬢の抜けた穴が大きくて、彼もかなり不機嫌な顔をしている。
「今日のことは大目にみるが、以後は止めたまえ。あぁ…それと、ミリーと仲が良い振りをするのも止めてくれないか。非常に不愉快だ」
婚約を発表して以降、只でさえ女学園で親しくしていた友人に距離を取られているらしいのに、これ以上変な自称友人達を傍に置きたくない。
「も、申し訳ございませんでした……。ですので、婚約者には……その……」
「分かっている。だが……」
問題はパトリックがどう出るかだ。
ケイト嬢の話を聞いて笑うなり傍観するならいいが、報復をした時はどうなるか。
「パトリック殿の逆鱗に触れないといいな?」
その言葉に、ようやく自分達がやったことの意味を理解したのか、伯爵令嬢の一人が青褪め始めた。
「ど、どうしよう、私の母、あそこの化粧品が買えないと……」
「ファスナーの納品がキャンセルされたら、私も父に怒られるかも」
システラム家の恐ろしさが漸く分かったのか、うな垂れた女子生徒達はそのまま暗い顔で生徒会室を出て行った。
パトリックが笑って許してくれることを祈るしかないだろう。
「さて。じゃあ、僕もミリーを迎えに行ってくるとするかな」
言いながら、これで漸くミルフィーとゆっくり話が出来ると喜んだのも束の間、お茶をすると出て行った筈の彼女達の姿は、学園のどこにもなかったのである。
「ねぇ、パルマ。昨日の件、僕は悪くないと思うんだけど、どう思う?」
「そうですね、あれは完全に不可抗力だったと思いますよ」
「じゃあ、どうして僕はミリーに会えないんだ?」
「私には分かりかねます」
昨日、ミルフィーとケイトから話を聞いたパトリックは笑っていたらしい。
『殿下も大変だな』と言っていたので、彼が怒っていないのは確実である。
しかしここで伏兵が現れた。
ミルフィーの姉、リーゼ嬢が参戦したのである。
『私の可愛い妹を虐めるなんて許せない!』
そう断言した彼女は、件の令嬢達一人一人に朝一番で特攻したらしい。
余り大事にしたくないミルフィーと面倒事は避けたいパトリックが頑張って阻止しようとしたらしいが、婚約者であるルドルフがリーゼ嬢に協力的なので結局は大事になってしまったようだ。
『姉が私の為に怒ってくれているのが分かるので、余り強くも言えず……』
今までの不仲を否定するように頑張って『お姉ちゃん』をしようとするリーゼ嬢が可愛いそうだ。
パトリックもそれが分かっているので、呆れながらもリーゼ嬢の好きにさせているらしい。
そんな訳で、今日の放課後はシステラム家で令嬢達の家門への報復会議をするそうである。
物騒な会議の矛先が僕に向かないことだけを祈るしかない。
「はぁ……」
「そんなに大きなため息を吐いたら、幸せが逃げちゃいますよ」
「ミリー?!どうしてここに?!放課後は直ぐに帰るって言ってなかったかい?」
「はい。そのつもりだったんですけど、兄が挨拶だけでもしてきなさいと……」
さすがはパトリック。男心がよく分かっている。
仕事が出来る男はやはり違う。
「会えて嬉しいよ、ミリー」
「私もです」
少し照れながら、ゆっくりと部屋へと入ってくるミルフィー。
それと入れ違うように生徒会の面々が部屋を出て行く。どうやら気を利かせて二人きりにしてくれるらしい。
「生徒会のお仕事、手伝うお約束だったのに申し訳ありません」
「気にしなくて大丈夫だよ。むしろ僕と中々ゆっくり話せないことを気にして欲しいな」
言いながらそっと抱き寄せて、髪に口づけを落とす。
すると、顔を仄かに赤くしたミルフィーが遠慮がちに僕の腕の中に納まった。
最初は少しだけ身を固くしつつも、少しずつ力を抜いて身を預けてくれるのが嬉しい。
「クラスはどうだい?」
「初日からお騒がせしているのに、皆さん良くしてくださいます」
「それは良かった。でも、何かあれば直ぐに頼ってね」
「ライ様が教室にきたら、それこそ大騒ぎなりますわ。ですので、お気持ちだけ頂戴しておきますね」
恋愛方面は初心なくせに、こういう場面では中々甘えてくれない。
それを少しだけ寂しく思いながら、抱き締める腕に力を込めた。
「僕は婚約者としてそんなに頼りないかな?」
「そ、そんなことはありません!ただ、殿下に頼るとその過激になったりしませんか……?」
「う~ん、昨日の子達に関しては、少しだけ無理な書類を押し付けただけで、穏便に帰したつもりだよ」
むしろ朝から彼女達に突撃したリーゼ嬢よりは穏便だったと思う。
彼女達の婚約者にやんわりと忠告はしたけど、それもまぁ穏便の範囲だろう。
僕はミルフィーとの時間を邪魔されたことはそこまで根に持っていない。
「ところでミリー、今週末は空いてるかい?良ければ植物園に行かないか?東方の珍しい花が見頃らしいよ」
「植物園?素敵ですね。是非」
「じゃあ、これは約束代わりに……」
言いながら抱き寄せた彼女の唇に顔を近づける。
僕の意図に気付いたミルフィーが、少しだけ恥ずかしそうに逡巡した後、ゆっくりと瞳を閉じた。
「ミリー、好きだよ」
ミルフィーの返事は聞けなかったけれど、もう直ぐ唇を塞ぐので問題ない。
……問題ない、はずだった。
「ミルフィーいる?!お父様が帰ってこなくて大丈夫って言うから、お姉ちゃんが学園を案内してあげる……わって、………で、で、で、殿下?!」
「………やぁ、いらっしゃい、リーゼ嬢」
「申し訳ございません!」
抱き締め合っていた僕とミルフィーの状況を瞬時に理解したのか、直ぐに土下座の体制に入ったリーゼ嬢。
それを慌ててルドルフが止めているが、どうせなら扉を開く前に止めて欲しかった。
と言うか、扉の隙間からこちらを覗いている生徒会の面々よ。
なぜ、止めなかった?
「ご、ごめんね、ミルフィー。今朝の令嬢達の件はお父様とお兄様で処理するからって」
要するにリーゼ嬢は話し合いから除外されたらしい。
それを侍従から伝言で受け取ったリーゼ嬢は、これ幸いとミルフィーを学園の案内に誘いに来たのだ。
恐らくこれも彼女の『お姉ちゃん』アピールの一環なんだろう。
「図書館のお勧めの休憩スポットとか、美味しい学食のメニューとか色々、ミルフィーの好きそうなのを紹介したいんだけど……」
色々書き込まれたノートを抱えるリーゼ嬢。
お願いだから、チラチラとこちらを見るのは止めて欲しい。
「……ミリー、折角リーゼ嬢が誘ってくれているんだし、行ってきたらどうだい?」
「殿下……」
「今週は学園に慣れることを優先して、生徒会は来週から手伝ってくれれば大丈夫だから」
物分りのいい男を演じてはいるけれど、出来ればこのままずっと傍に居て欲しい。
でも、リーゼ嬢だけでなく、その後ろに立っているルドルフの圧が強くてリーゼ嬢に帰れとは言えなかったのだ。
「では、お言葉に甘えて、姉と校内の散策をして参りますね」
「気を付けてね」
「はい」
可愛い顔で頷いてくれたミルフィーが、僕の腕の中から出て行ってしまった。
そうして楽しそうな顔でリーゼ嬢と生徒会室を後にする。
ちゃっかりとその後ろに付き従うルドルフに殺意が沸いた。
僕も仕事がなければ一緒に行きたい。
「はぁ……、週末に期待しよう……」
そう、週末の逢瀬に期待した僕だったが、その日、何故かやたらと生徒会の面々と出くわした。
ケイト嬢とパトリックだけじゃなく、パルマとその婚約者まで居たのだ。
僕とミルフィーの話を聞いて植物園に行きたくなったと言っていたが、どうせ覗くつもりだったのだろう。
もうヤケクソになり、結局は全員で植物園を回ることにした。
来週からミルフィーが生徒会に来てくれる。それを期待するしかない。
だが、世界は僕に冷たかった。
王太子である兄から、マルゴリー領から領民の流出が激しくなっていると忠告を受けたのだ。
どうやら僕との婚約破棄で降爵になったことに加え、直ぐ隣が僕の公爵領になったことで流民が増えているという話だった。
当然、王都でのんびりしている状態ではなく、急遽領地に向かう羽目に陥った。
「ミリーとの楽しい学園生活が遠のいていく……」
「王族にそんな青春がある訳ないだろ。諦めろ」
「兄上……」
苦労してこそ王族。
それだけ言って、兄は静かに部屋を出て行った。
王太子である兄の言葉が重い。
どうやら、僕の思い描くミルフィーとの楽しい学園生活は遠いようだ。




