8.資金稼ぎ
渓流を進んだ先に、森の中に丸太小屋が点在してる小さな村落があった。木々の間にロープをかけて洗濯物を干してあったり、ハンモックを吊るしてあったりと、自然と共存してる感じがして見てるだけで心地いい。木の上のハンモックで女の子が寝てるのを発見! 公共の場で寝顔を見れるなんて贅沢……。この村に祈りを捧げます。
「自然宗教?」
「百合信仰です」
「花なんて咲いてないけど」
百合はいずれ咲くもの。若き芽の成長を願うのが私の務め。
「そろそろ資金調達した方がよくない?」
「私はてぇてぇを摂取すれば数日断食しても問題ありません」
「何度も空腹で倒れそうだったじゃん」
百合以外はいらないと誓ったはずなのに我ながら情けない……。
「でもお金を稼ぐって何を? 女の子とお喋りでもするです?」
「お金を稼ぐで真っ先にそれが出るのが怖いんだけど。ともかく、こういう所ならアレがあると思う」
「あれ?」
フェネがキョロキョロしながら村を歩いて行った。それで神木とも思える大樹の前まで来ます。木は根の近くに扉があって、なんと建物になってるよう。よく見たら窓みたいのもある。それと扉の上には看板がかけられて、剣と翼に、これは動物の耳? それとこっちは角? が描かれてる。
「ギルド協会から仕事を斡旋してもらうのが至極一般」
「こんなところにもあるんですね」
「全世界に普及してて、今やその名を知らない国はないよ。法令も全世界で適応されている。まぁでも、それを良しと思わない国もあるから、その効果が絶対的とは限らないけどね」
つまりこの看板の翼や耳は世界の種族を表してるのかな。剣が人間、耳が獣人、翼が天使で角が……魔人?
「私が依頼を引き受けてくるからヴィヴィはここで待ってて」
「そんな。フェネを一人にさせて暴漢にでも襲われたら私は一生後悔します……!」
「ヴィヴィは天界から目を付けられてるでしょ。一緒に居たら邪魔って言ってる。揉め事は嫌いなの」
邪魔ってはっきり言われたー。フェネー、私って邪魔ですかー。泣いちゃう。
フェネは何も言わずに中に入って行きました。
仕方ない。窓からこっそり眺めて見守っていよう。何かあればすぐに助けにいけるように。
あ。受付のお姉さんかわいい。金髪だ~。えへへー。目の保養~。
「依頼の受注に来ました」
「ギルドカードの提出をお願いします。ありがとうございます。……フェネさん、ですね。獣人でランクはA。すばらしいですね」
「恐縮です」
耳を立てて会話を聞いてるけど、やっぱりフェネってすごい人? 地上の制度はよく知らないけどランクがAっていうのは相当高いってのは分かる。
「依頼ですが、獣人の方でしたら、こちらなんてどうでしょう?」
受付のお姉さんの言葉にフェネは長い間沈黙してる。なにかチェックしてるのかな? んん、何も聞こえない。
「……ではこちらを」
「ソードペンドラー討伐依頼ですね。助かります。最近東の洞窟で異常繁殖していて村の方が不安になっているんです。では、依頼を受注しますね」
会話が終わったみたいでフェネが振り返った。その瞳が少し暗くなってるのが見えたけど、私に気付かれて目が合っちゃう。ああ、露骨にため息吐いてます。
協会から出てきました。
「不審な行為は控えて欲しい」
「フェネの安全のためです」
「さすがに協会内で粗相する人がいたら、そっちの方が問題」
なぜか私に言われてるような。
「とにかくソードペンドラーの退治ですね! 任せてください!」
「盗聴までしてるとは」
はっ。失言失言。
それからフェネに案内されて森の中にある洞窟の前まで来た。その道中、心なしかフェネの口数が少なかった気がします。怒ってるのかな。それとも……。
「獣人はこの国では扱いが悪いんですか?」
さっき受付のお姉さんが『獣人の方なら』って言っていた。それって種族に対する偏見な気がする。
──獣人を便利屋か何かと思ってる人がいる
前にフェネがそう言った。もし本当なら悲しい。
「別に普通。扱いが悪いならそもそも依頼なんて受注できないよ。それに種族間の差別発言はギルド法令にも違反してる。だからそんなことはない」
「それは世間一般の考えでしょう? 今回の魔物討伐もフェネが獣人だから押し付けられたのでは?」
「本当に嫌なら断る権利はある。私はただ仕事に選り好みしないだけ」
だからランクAなのかな。でもそれが本当か分からないなぁ。
「お喋りしていたら日が暮れる。行こう」
それ以上話したくないって感じで洞窟に入って行った。フェネは自分の話になるとすぐに切り上げようとする。なにか悩みがありそうだけど、やっぱり私って信用ないのかな……。
ダメダメ、私が悩んでどうするの。百合信者として、フェネを最後まで助けるです。
洞窟の中は薄暗くて、少しひんやりしてて寒い。そんな中で闇の奥で何かが蠢いている。
カサカサと地面を這いずって、無数の足が生えた昆虫。いわゆるムカデってやつ。でもなにこれ、めちゃくちゃ大きくない? 上半身起こしてるけど、普通に私の背丈の何倍よりもあるんだけど。
ともかく、ぶっ倒す。フェネには指一本触れさせない。ショットガンを生成して顔面に散弾をぶち込んだ。ムカデは吹っ飛んでひっくり返ってぴくぴく痙攣してる。
「見かけ倒しです。よわよわモンスターですね」
「いや。こいつ普通に強い魔物なんだけど。生命力タフだし、中々死なないし」
「ちなみに私の魔法は気絶させるだけなのでトドメはお願いします」
「銃乱射するのに、その辺は天使らしいのがよく分からない」
フェネがソードペンドラーの頭に手を掲げて火炙りにしています。焚火の時と火力が段違い。黒焦げになって動く気配なし。その後、フェネはギルドカードを死んだ魔物に向けています。何してるんだろう?
そんな調子で洞窟内にいる他の個体も全て討伐しました。全部で12匹。手際よく終わらせたので一刻もかかってない。
「これ、討伐したって協会の人は分かるんです?」
「カードにリンク魔法があるから、それを使って報告完了する」
じゃあさっきカード向けていたのはそういうことかぁ。そんな便利なものまであるなんて地上の魔法も侮れない。
「でもあんなに大きな魔物をフェネ一人だけに受けさせるってやっぱりおかしい気がします」
数も沢山いましたし、いくらランクが高いからってこれを案内するのは納得できない。万が一、フェネに何かあれば私が怒る。
「仕方ないよ。どんなに法を整えても人の中に根付く思想はそう簡単に拭えるものじゃない」
「でもフェネは百合を知らなくても、尊いを理解しようとしてくれてるじゃないですか。結局大事なのはその人の人間性だと思うのです」
「毒キノコでも食べた?」
私だって真面目になる時もあるのにー。
「……私も、変われたらいいなって思うよ」
そう話すフェネのケモ耳が珍しく動いてる気がしました。




