7.妄想天使
学術都市を離れてまたしても森の中を歩いている。地上は森が多い気がする。森の中ばっかり歩いてる。しかも雑草多いから魔法使わないと歩けないところも多い。地上の人は不便だなぁ。
「まさかヴィヴィが天界から追われていたなんて」
「隠していてすみません。こういうのって自分から話し辛くて……」
「気持ちは分かるからいいよ。じゃあその翼が黒いのもそれが関係してるの?」
「いわゆる堕天ってやつです。天界から堕ちた天使は翼が黒くなるんです。つまり、私はオンリーワンの天使。格好いいでしょう?」
「天界を追われている理由が何となく分かった」
えぇ? これだけの会話でそこまで分析するなんて、やはりフェネは優秀。フェネ探偵と呼びたい。
「にしても、街に着いてもすぐ出て行くのは何か理由でもあるの?」
「世界の尊いが助けを求めているんです。ゆっくりしている暇はないんです」
守護天使がもう動いているとなると、別の所でも似たようなことが起こっている可能性がある。あんな横暴はすぐに鎮圧しないと、未来の百合が失われてしまう。私があと1000人いれば……!
「すぐに出るのは構わないけど、お金とか大丈夫なの?」
「全然大丈夫ではないです。実はお腹空いています」
最後に食べたのはフェネがくれた焼き魚。思い出しただけでお腹が……。
するとフェネが周りをキョロキョロしてます。それで何やら見つけたみたいで、屈んでいます。何をしているんでしょう?
「これ、あげるよ」
なんとフェネが真っ赤なお花を渡してきて……。
え? これってもしかしてそういう……?
思い返せばあの守護天使の間に割り込んで助けてくれた。普通あんな危ない橋を渡る人はいない。そう、これは、間違いない。
ダメダメ、何を意識してるの!? だってこんな恋に無頓着な子が急にアプローチしてくるなんて、意識するなって方が無理……!
「顔赤くしてどうしたの? 熱?」
「や、ちが……だって急に……そんな……」
普段の口調で言ってくれるのは気遣ってくれてる証拠。でも私は気付いてしまってる。ああ、やっぱり私は罪な天使……。
「もしかして赤い花は好みじゃないとか」
「いえ! 赤も好きです! はい!」
「そう。じゃああげる」
渡された……! これは確定です。ついにフェネも尊いに、いいえ、百合に気付いてくれたようです。私は今、とても幸福に包まれています。この花の香りが私達の愛を祝福してくれている……。
「食べないの?」
「はえ?」
「前に花食べてたから」
あれれ? もしかしてお腹空いてるって言ったからくれただけ? 百合食べてたの見られてたから?
つまり私の勘違い……恥ずかし……。
羞恥を紛らわすために花を食べよう。案外……いける……気がする……。
緑ばっかりで見飽きてきた。そろそろ百合色が恋しい。ギャーギャー騒ぐ魔物の声より、キャーキャー囁く乙女の声が欲しい。
「そういえば禊もしてないなぁ」
「禊?」
「はい。心を洗い流すために体を水で清めるのです」
こんな自然の中を歩き通しだし臭くなったら嫌だな。乙女のピンチに駆け付けた瞬間、微妙な顔をされたら一生立ち直れない。
でもなぜでしょうか。ずっと一緒にいるはずのフェネは臭わないし、むしろ良い匂いがします。なにこれ、ハーブの匂い?
「フェネから甘い香りがします」
「ああ。さっきこれ使ったからかも」
懐から何やら取り出して、水色の液体の入った瓶を見せてくれます。
「香水?」
「私、獣人だから匂いには気を付けてる。獣臭い匂いが嫌いな人も多いし」
フェネの話を聞くたびに苦労が絶えない気がして仕方ない。一つ分かるのは努力家ということ。
「よかったらヴィヴィも使う?」
「いいんです?」
「うん。長旅だとやっぱり匂いって気になるよね」
そう言って香水つけてくれた。わー、いい香り~。生き返る~。
「フェネとお揃いの香り……尊い……」
「今更なんだけど、ヴィヴィってユリが~とか、尊い~とかよく言ってるけど、そもそも天使でしょ? 地上にはよく来てたの?」
「地上に来たのは今回が初めてです」
「え? だったらそのテテってのはどこで?」
「天界から見ていました」
「いやいや。天界って雲の上でしょ? 見えるわけない」
……聞こえる。これは尊いのSOS。行かなくては!
あの向こうに乙女が叫んでいる!
「え、急になに?」
「乙女がいます」
半刻は駆けた。翼のある私は平気だけど、フェネは余裕の表情でついてきている。やはりフェネは特別な訓練をしてそう。ともかく、森を抜け川を越え、崖を上って、街道まで来ると、そこには馬車に乗る商人らしき女性が狼の魔物に囲まれている。
「私、視力には自信あったんだけど、今本気で悩んでる」
「あとで伺いましょう」
銃を構えて狼に向ける。殺意を隠すなど不要。おまえは乙女の祈りと風穴が空くの、どちらを選ぶ?
狼の魔物は情けない遠吠えをあげて逃げて行った。分かればいいのだ。
「助けて頂き感謝します。天使様」
「人を助けるのは当然の善行です」
そのまま颯爽と去ろうとしたらフェネにケープを掴まれる。うへー、フェネー、お願いだから服を掴むのはやめてー。
「ヴィヴィ。見返りを求めろとは言わないけど、でも少しくらいはいいとは思うよ。実際空腹で困ってたわけだし」
「でも、目にいい食べ物を分けてもらうのはあまりに厚顔かなぁって」
「その悩みは今関係ない」
あれ、そうだったの? 普段は何も言わないから、てっきりそうかなって。
するとフェネは商人の女の人と話して何かをもらってた。戻って来たら手には棒状のパンを持ってる。
「食べ物分けてもらった。この辺は街道だし、まぁそんなに魔物は出ないと思う」
あんな群れで魔物が現れるのはよほど腹を空かせた時くらいかな。今の私みたいに。
フェネはパンを半分に千切って渡してくれた。
「分け与えるのがテテだっけ? これでいいのかな?」
その一言で私の魂は浄化されました。




